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わが国に医療観察法医療が導入されて,来年7月で10年を迎える。この医療観察法の附則に一般精神医療の質の向上を図ることとあるように,本法が成立後,「入院医療中心から地域医療福祉中心へ」の流れが生まれ,「良質かつ適切な精神障碍者に対する医療の提供を確保するための指針」の厚生労働大臣告示がなされるとともに,医療観察法病棟では治療計画,退院計画が多職種のケース会議で綿密に検討され,通院医療においても多職種での危機介入の取り組みがなされ,それらの取り組みが一般精神科医療にも波及するなど,この医療観察法医療が精神科医療全般の水準の向上に果たした役割はきわめて大きい。しかし,それでも5年を超える長期入院が問題化してきている現在,医療観察法の無かった頃からの自治体精神科病院での10年を超える触法精神障碍者の社会復帰阻害要因を調査解析した論文はきわめて示唆に富み,考えさせられた。特に,陰性症状が重篤で,機能低下が著明なため長期入院しているが,問題行動を起こすリスクは低減しているケースの処遇を巡る議論は,最近問題となっている認知症の触法精神障碍者の精神医療の在り方とも関連している。来年の医療観察法の見直しの議論に拍車がかかり,医療観察法医療と精神保健福祉法での非自主的入院医療とをどのように再構築していくかという喫緊の課題が本誌を中心に論じられるようになってほしいと願っている。
本号の巻頭言では,わが国の東北復興のプログラムの根幹にマインドマターズを置くべきであること,それは「病になる前に戻る回復のニュアンスではなく,病を体験した後に新たな人生を生きる,再生のニュアンスこそ重要である」というリカバリーの理念そのものであること,オーストラリア/ニュージーランドの精神保健福祉政策の根幹にあるのも同様であるというご指摘は誠に正鵠を得ており,精神科の医療関係者がもっと声を上げるべき時に来ていると痛感した。その他,震災関連,自殺関連や感情障害の気質関連などの研究と報告をはじめとする玉稿が集まり感謝している。査読した記憶の新しい「糖尿病での減塩食後のLi中毒」の既報に対して,糖尿病治療中のLi中毒の性差も含めた病態機序の解説が「精神医学への手紙」に掲載され,大変勉強になった。この手紙欄は本誌の命であるので,いっそう多数の先生方のご投稿をお待ちしている。
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