- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
本号でも多様な投稿論文が並んだ。本年1月より震災関連の連載『東日本大震災・福島第一原発事故と精神科医のかかわり』が始まっているが,その第5回として「超高齢社会における災害時のメンタルヘルスケア」が載っている。折しも,井上幸紀先生の巻頭言「基礎的研究におもうこと―時の流れとともに」は精神科医としての25年の歩みを回想されたものであるが,これらを読むにつけ,時代とともに精神医学と医療,そして精神科医の役割の裾野の広がりをつくづく感じざるを得ない。「大震災」や「原発事故」は“想定外”のアクシデントとしてみることもできるが,「超高齢社会」や「復職支援」といったテーマは,時代の流れに沿って浮かんできた問題であろう。また,本号で掲載されている「社交不安障害」といった,つい最近までは話題になっていなかったものも,注意すべき障害として出てきている。さらには,たまたま本号では載っていないが,脳科学の発展による脳への還元化の増大と,それが個人や社会とどうかかわるのかといったテーマも大きな課題である。病態と治療との乖離はまだ大きい。
復職支援といえば,今ではすっかり社会問題化しているが,昔は統合失調症,今日ではうつ病や適応障害だろう。日常診療においても精神科医はかなりの時間をこれに割かれるようになっているだろう。私事で恐縮であるが,筆者はちょうど20年前,包括的な産業ストレスに関する当時の労働省の委託研究(故加藤正明先生が代表)の一端をお手伝いさせていただく機会があり,「うつ病」と診断されている勤労者(全員が金融関係の大企業)に休職→復職→休職を繰り返す一群が少なからずいることに気づき,その解析(要因と予防)をしたことがあった(ちなみに,当時はまだ双極性障害は今のようには注目されておらず,軽躁エピソードが「回復」と見誤られるケースも多かった)。しかし,この研究は班の中では格別評価されず,とくに役所からは無視された記憶がある。その時は自分の調査研究は的外れだったのかと落胆したが,今では復職困難問題(とりもなおさず休職問題でもあるが)の切実さは言うまでもない。当時はうつ病は統合失調症と違い,回復さえすればベルトコンベアー式に即就労可能(復職可能)と思われていたのである。うつ症状が回復してもすんなりと復職できなくなったのは個人的要因によるのか企業の内実変化を含む社会的要因が大きいのか,はたまた疾病性の問題なのか事例性の問題なのかを含め不明であるが,精神科医が関与し解決の道筋を示すべき課題は確実に増えている。
Copyright © 2013, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.