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編集後記
M. I.
pp.826
発行日 2011年8月15日
Published Date 2011/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405101965
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東日本大震災から5か月が経ち,被災地から目をそむけていれば一見何事もなかったかのような日常生活が続いているが,節電と原発処理の行方知らずの状況とがあいまって,この夏はいっそう暑い。目に見えないものは見えるものよりはるかに怖い。だから古代から人は見えないものを見えるようにしてきた。一度目にすれば「何だこんなものなのか」で落ち着くが,目にしたためにかえって不気味さやおぞましさが湧き起こってくるものもある。そこから新たな恐怖や侮蔑が出てくる。
こんなことを思いついたのは,本号の大半が性同一性障害の特集で占められているからである。かつて性同一性障害は同性愛や性的嗜好の異常など,この障害と表面的に類似したものと混同され,おぞましいものとして排除されるかじっと隠されてきた。だが今日では,この障害は「病気」あるいは「神様のエラー」として,いや「本来のその人らしさを生きる姿」として認知されるようになった。衣服倒錯症は異性の衣服を身にまとうだけであるから医療上問題ないが,性転換を望むとなると医学的にも法律的にもさまざまな問題が引っかかってくる。今回の特集はこれらの問題を多面的にとらえたもので,冒頭の山内俊雄先生の論文はその複雑さと難しさとを整理してあるので,以下の多彩なテーマを理解するのに大いに役立った。この構成とそれにふさわしい執筆者を選んでいただいた齋藤利和先生に感謝申し上げたい。
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