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はじめに
2004年6月4日に閣議決定された健康寿命延長戦略としての「がん,心筋梗塞,脳卒中,糖尿病の4疾病対策10か年計画」は2005年度から各都道府県でそれぞれ策定・実施され,各地の保健医療計画に盛り込まれて今日に至っているが,この当時,これらの身体疾患にうつ病が併発することによる健康寿命の短縮や心筋梗塞にうつ病が併発すると平均余命の短縮を示唆する論文2)を根拠に,うつ病を健康寿命延長戦略に加えてもらえるように,担当の厚生労働省大臣官房技術統括審議官に繰り返し要望した。しかし,同時期に始まった自殺予防対策でうつ病対策は手当てされることを理由に,残念ながら5疾病には加えられなかった。2011年7月の社会保障審議会医療部会で,4疾病に精神疾患を加えて5疾病とする方向性が審議され,2012年3月に厚生労働大臣告示により医療計画の策定に係る方針として5疾病となることが決定されたことは誠に感慨深い。
しかし,WHOはうつ病ががん,循環器疾患とともに,死亡や生活障害という国民への疾病負担(障害調整生命年:disability-adjusted life year;DALY)が最も大きい3大疾患の1つであることを根拠に,15年前からがん,循環器疾患,うつ病を重点施策にすべきという政策提言を繰り返しており4),2010年集計のEUの最新データでも7)(約3,000万人のうつ病と600万人の認知症を含めた精神疾患のDALY評価値が全疾患の中で占める割合が男性で18%,女性では22%と最も高いことを明らかにしている。この数値はWHO Report 2002の国別のDALY評価値にあるわが国のデータとも一致している(表)8,9)。また,EUではうつ病の医療費+医療費以外の直接経費+労働損失コストが11兆円と全疾患中,最も高いことも併せて報告1)され,わが国でも同様であることが報告されている6)。
したがって,わが国では政策的重点施策として精神疾患,特に,うつ病と認知症を取り上げることに関して遅きに失してしまった。10数年に及ぶ超高水準の自死既遂をみても,東日本大震災での経験に照らしても,人々のこころに襲い掛かる巨大な心的負荷をケアできるような地域の絆とアウトリーチの必要性,専門性の高い精神科医療と多職種によるケアの重要性は明白であったにもかかわらず,実現に結び付けられずに来てしまった。それでもこのたび医療計画に取り上げられた,この千載一遇の機会に,どのように各県では具現化していくかが今,問われている。この小論ではこれまでの活動を振り返りながら,どのように進めているか,どのような困難があるかを略述したい。
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