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はじめに
日本の精神科医療の特徴として,これまで以下のようなことが指摘されてきた。①精神科病床が多い,②精神科病院の8割以上が私立,③いわゆる「精神科特例」の存在,④精神科医療の専門化の遅れ,⑤家族に負担を強いる保護者制度の存在,⑥長期在院者が多い,⑦地域ケア体制の遅れ,⑧最近は診療所を開業する医師が多く入院医療は医師不足の傾向がある。入院患者の人権尊重と社会復帰の促進を謳った精神保健法(1987)から数えても,今日まで20年以上にわたって,こうした状況を改革するための模索が続けられてきた。本稿の主題と関係ある主な法改正や方針を列挙しても,障害者基本法の成立(1993),精神保健福祉法への改正(1995),精神保健福祉士法制定(1997),精神保健福祉法改正(1999),社会保障審議会障害者部会精神障害分会報告書(2002),「精神保健医療福祉の改革ビジョン」(2004),障害者自立支援法制定と精神保健法改正(2005),「精神保健医療福祉のあり方等に関する検討会報告書」(2009),「障害者制度改革の推進のための基本的な方向について」(2010)とめまぐるしい。
「精神保健医療福祉の改革ビジョン」以来基調となってきたのは,現在の「新たな地域精神保健医療体制の構築に向けた検討チーム」においても基本理念となっている「入院医療中心から地域生活中心へ」という方向性であり,その象徴ともいえる事業が長期入院者の退院に向けた取り組みであった。この取り組みは,2000年に大阪府による退院促進事業として開始され,2002年に公表された社会保障審議会精神障害分会報告書において「社会的入院7万2千人」との数値が盛り込まれたことを受け,2003年に国の事業となり,モデル事業を経て,障害者自立支援法下で2006年以降,障害福祉計画に地方自治体ごとに削減目標が設定される中で実施された。その後,「精神障害者地域移行支援特別対策事業」(2008),「精神障害者地域移行・地域定着支援事業」(2010)と名前を変えてきたが,この間,2009年に開催された障害保健福祉関係主管課長会議の資料によれば,事業実施後6年間で事業の実績は2,010人にとどまっており,「従来より地域移行を推進してきたところであるが,長期患者の動態等について大きな変化が見られていない」と事業の目標が達成できていないことが明らかにされている。「精神保健医療福祉のあり方等に関する検討会報告書」(2009)以降,「条件が整えば退院可能な者」「社会的入院」という表記が改められ,2011年度をもって国の事業は終了し,2012年度からは障害福祉サービスにおける支援として個別給付化されることとなっている。この変更により,退院促進に向けた取り組みが弱体化することを懸念する声が上がっている。
高木は「こうした時代の必然的要請としての脱施設化,地域移行について,私たちの誰もが急激な潮流の変化について行けず,明確な改革ビジョンとその実現プログラムをもてずにいるのが現状である」17)と指摘しているが,変化に向けた萌芽は随所にみられているようにも思われる。以下,本稿では,国が力を入れてきた「社会的入院」患者に対する退院促進事業の成果と,残されている課題について検討することを通して,地域生活支援の視点から医療と福祉の連携のあり方について展望してみたい。
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