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はじめに
わが国の精神保健医療福祉施策は,精神衛生法改正(1965年)を契機として地域精神医療の方向に歩み始め,精神保健法への改正(1987年)以後の法施行後5年以内の見直し,障害者基本法(1993年)に基づく障害者プランの閣議決定,これに続く精神保健福祉法への改正(1995年)などによって,福祉と結びつく方向に発展してきた。このことを象徴するのは,2002年の社会保障審議会障害者部会精神障害分会報告書「今後の精神保健医療福祉施策について」(以下,「2002年分会報告書」とする)である。その基本的な考え方には,“今後の精神保健医療福祉施策を進めるに当たっては,まず,精神保健医療福祉サービスは,原則として,サービスを要する本人の居住する地域で提供されるべきであるとする考えに基づき,これまでの入院医療主体から,地域における保健・医療・福祉を中心としたあり方へ転換するための,各種施策を進める”15)と記載されている。
この時期,わが国は,少子高齢化の進展,核家族化や女性の社会参加による家族機能の変化,国際競争の激化と経済・産業構造の変化などを背景に,社会構造改革の必要性が叫ばれ,実際にそれが進められていった。そして,医療,年金,社会福祉などの社会保障制度全般において,将来にわたって良質のサービスを安定的に供給できるようにすることを目的とした改革が進められ,やがて,その激流は精神保健福祉施策にも及ぶこととなった。政府全体で「改革」,「自立支援」を謳った多くの施策が立案・実行されたと推測するが,地域精神医療の充実も,その激流の中で活路を見いだすほかなかった。
さて,「2002年分会報告書」の地域医療の確保には,“ケアマネジメント手法等を活用したチーム医療を進め,地域ケアの充実を図る”との記載があり,地域精神医療に多職種チームやケアマネジメントを導入することが述べられている。「2002年分会報告書」をもとに,2004年に公表された厚生労働省精神保健福祉対策本部報告書「精神保健医療福祉の改革ビジョン」(以下,「改革ビジョン」という)にはACTの導入が言及されている。すなわち,“精神症状が持続的に不安定な障害者〔たとえばGAF(the global assessment of functioning)30点以下程度を目安〕も地域生活の選択肢を確保できるよう,24時間連絡体制のもと,多職種による訪問サービス,短期入所(院),症状悪化時における受入確保などのサービスを包括的に提供する事業の具体像を,普及面を重視しつつ明確化する”との記載がある7)。
「2002年分会報告書」を受けて,2003年度には国立精神・神経センター国府台病院(現在の国立国際医療センター国府台病院)を拠点に,ACT-J(assertive community treatment Japan)研究が始まった。この後,ACTという言葉はわが国の精神医療従事者の間に急速に広がり,“ACTブーム”といってもよい現象を呈するとともに,地域精神医療として,京都,浜松,岡山などで,それぞれの特徴を持ったACT的活動が始まった2,4,16)。しかし,わが国の地域精神医療の歴史を振り返ると,優れた,組織的な地域精神医療活動は数多く存在してきたし11,20,21),現在も存在することを忘れてはいけないと思う。
ACT-J研究の意義は,「2002年分会報告書」に始まる精神保健医療福祉施策の転換の具体像の提示に貢献しただけでなく,わが国の地域精神医療の歴史の中にある,草の根的活動の遺伝子に命名作業を行い,現在という時代背景の中でその活性化を促したことにもあると思う。
本稿では,地域精神医療におけるACTの位置づけについて,精神保健福祉施策との関係から述べる。そして,精神科病院の機能,およびその地域精神医療の取り組みである精神科デイ・ケアと訪問看護の実績を踏まえ,わが国の地域精神医療におけるACTのあり方について考察する。
わが国は,他国の技術・技能を輸入してわが国の歴史的文脈の中で咀嚼して発展させてきた伝統を持つ。本稿が,ACTを地域精神医療に根付かせることに,ほんの少しでも役立てば幸いである。
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