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はじめに
厚生労働省の文書を見ると,精神保健医療福祉と表現されることが多い。保健と医療と福祉を3つ並べて,精神科に関する専門領域全体を表しているわけである。わが国では,保健・医療・福祉とも,一定の活動の領域と専門職と財源とをもって相互に区別される領域となっている。保健は市町村や保健所の保健師や精神保健福祉相談員などが主に担当する相談や訪問業務などからなり,財源としては地方自治体の予算が主体である。医療は精神科病院や診療所などが行う治療であり,財源は診療報酬が中心である。福祉は障害者総合支援法で規定される障害福祉サービスが主体であり,相談支援専門員やその他の専門職が従事しており,それに対して固有の報酬体系がある。
しかし,保健は英語のhealthの訳であり,本来は医療も福祉も含み込んだ広い概念である。前稿43,44)でも指摘したことであるが,英語ではcommunity mental healthという用語が,わが国では「地域精神保健医療福祉」という長い名前になる。このことは,わが国では保健・医療・福祉がそれぞれ縦割りの組織となっている事態と対応していると思われる。精神科医にとって,そもそも保健の領域は何をしているのか,たとえば「保健所がどのような活動をしているのか」はイメージをつかみにくいのが現状だろう。それは上記のような縦割りの制度の下で,保健と医療と福祉の接点が乏しいという実情を反映している。しかし,今後在宅医療の拡充が医療全体で大きな課題となり,精神科においても地域で精神障害者を支える方向に移行しつつある現在,支援が保健・医療・福祉に分断されている状況は重大な問題であると言える。
本稿では,上記の問題意識を持ちつつ保健師を含めた精神保健活動について紹介したい。現在,保健医療福祉は「地域包括ケアシステム」という概念をキーワードとした再編成に向けて動いている。地域包括ケアシステムはこれまでは高齢者中心に検討され,精神障害は含まれていなかった。しかし,2017年度からは「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」という形で,精神科においても地域包括ケアシステムが主導的役割を果たすことが期待されることになった29,30)。この概念は言わば,分断した保健・医療・福祉を再統合して,community mental healthと一言で呼べるものを作るという意図を表したものとも言える。とはいえ,この概念を実質的なものにするには,医療も保健や福祉との相互交流を深めることが重要となる。本稿ではこのような目下の動きを念頭に置きつつ,精神保健の役割と,その中での保健師の役割を検討してみたい。なお,精神保健では,保健師以外にも,精神保健福祉相談員として精神保健福祉士が多数雇用されており,保健師と並び重要な役割を担っている。本稿では,与えられたテーマである保健師にひとまず焦点を絞ることとしたいが,そのことが精神保健福祉士など他の職種の役割を過小評価するものではないことをあらかじめ確認しておきたい。
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