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はじめに
私宅監置の容認に象徴されるように,わが国の戦前の精神科医療施設整備は進まず,その反省から戦後は医療を受ける権利の保証に重点が置かれ,国際的な精神科病床数削減の方向に逆行する形でわが国の精神科病床は増え続けて,優遇措置のもとにかつては“精神病院ブーム”が生じるに至り総合病院もこぞって精神科病棟を作った時代があった。その一方で精神衛生法による入院患者に対する人権保障制度はきわめて貧困であり,退院請求や処遇改善についての保証はほとんどなく,わずかに措置入院患者における行政不服審査,行政事件訴訟,人身保護法による救済制度,身体拘束に関する知事への調査請求などがあったのみで,これらも実際に利用されることはほとんどなかった。
宇都宮病院事件を契機として,精神障害者の人権に配慮した適正な医療および保護の確保と精神障害者の社会復帰の促進を図る観点から精神衛生法が精神保健法に改正された。入院患者の人権に関しては,任意入院,書面による権利などの告知,精神保健指定医,精神医療審査会などが新たに制度化され,精神病院に対する厚生大臣等による報告徴収・改善命令に関する規定が設けられ,入院患者に関する退院請求・処遇改善請求制度が作られ,入院届け・定期病状報告などの審査とともに精神医療審査会が入院患者の人権保護の役割を担うこととなった。
その後も精神病院による不祥事件が繰り返され,精神保健法の見直しが重ねられて,精神医療審査会については,いわゆる国際人権B規約(市民的及び政治的権利に関する国際規約)第9条第4項の「独立した第三者機関」に該当するかという問題があり,2002年4月からは,審査会の事務が都道府県または政令市から精神保健福祉センターに移行して独立性が高められた。1999年の改正では委員数の15名以下という制限が削除されるとともに合議体も必要に応じて複数設置できることとなり,審査の迅速化が図られた。また2005年改正では合議体の構成が医療委員の割合を抑制する方向に修正され,医療委員(精神保健指定医)2名以上,法律家委員1名以上,有識者委員1名以上の計5名となった。
2005年に施行された医療観察法では,精神保健福祉法と同等の人権保護制度に加えて,裁判所が入院に関する決定機関として位置づけられ,外部委員が参加する倫理会議や外部評価会議が定期的に監視機能を果たすなど,中立性と透明性のより高い人権保障制度が施されている2)。
本稿では退院・処遇改善請求制度の概要と現状について記載し,その問題点と今後の課題について若干の検討を加える。
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