巻頭言
精神医学は進歩したか?
上野 修一
1
1愛媛大学大学院医学系研究科 脳とこころの医学
pp.518-519
発行日 2009年6月15日
Published Date 2009/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405101433
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大学を卒業し,精神科医となってすでに20年が過ぎた。考えてみると,精神医学はいろんな意味で変化があった時期であり,私的にどんな変化であったのかを考え直してみる。
1つは,法的な変革である。精神病院職員の患者への暴力を契機に,精神衛生法から精神保健法へと変わり,入院形態や行動制限,精神保健指定医の資格など,精神障害者の基本的人権の尊重する内容として大きな変革であった。その時は,私はちょうど大学院にいた頃で傍的に見物していたに過ぎないが,大学病院では,精神保健指定医になるための必須症例,特に措置入院患者はなかなか経験できないため,短期間ではあるが単科精神病院で臨床に携わる機会を得た。大学以外の精神医療にどっぷりとつかったのはこの時が初めてであり,十分ではないにしろ臨床の幅を広げるために役に立った。精神保健法は,後に社会福祉を組み入れた精神保健福祉法に改正され,加えて,心神喪失者等医療観察法や,この5月から施行される裁判員裁判での精神鑑定などと,精神障害への法的なかかわりと精神医療とのバランスを取ることの難しさを痛感している。2006年に施行された身体,知的,精神の三障害の壁を取り除いた自立支援法は画期的ではあったが,一部のサービスが受益者負担となり,結果として福祉が後退する結果となったことは残念で,そのために調子を崩した患者を診るとこころが痛む。限られた財源の中でどのように精神障害を支えるかは,さらに知恵を出し合うことが必要だろう。
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