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はじめに
職域における精神保健活動については,地域における精神保健活動とは異なる仕組みがあることを理解することが必要である。この領域には,労働衛生・産業保健・職域保健といわれる仕組みがあるが,労働安全衛生法を根拠法とするものであり,その最大の特徴は事業者責任による活動という点である。50人を超える労働者のいる事業場においては産業医および衛生管理者の配置義務が課せられており,事業者の責任において専門的人的資源の配置がなされて保健活動が行われているという特徴がある。なお最近では,産業保健における精神保健活動を「産業精神保健」と称することが多い。
この固有の仕組みは,精神疾患に対する早期介入を行ううえで適切に活用できれば,有効に機能し得る仕組みであると考えられる。しかしながら,仕組みはあっても仕組みを支える質の高い専門的人的資源が十分にないと機能しない。職域において最も重要であり,従前から指摘されている課題は,中小企業における産業保健の仕組みづくりである。大企業においては,ある程度仕組みが整備されており,専門的人的資源も豊富な場合も多く,概して仕組みが生かされていると考えられるものの,わが国の企業の大部分を占める中小企業においては,この仕組みが十分には機能していないのである。もっとも大企業においても,実際のところメンタルヘルスに関しては,専門的人的資源は必ずしも充足していないという現状もある。
「早期介入」には幾つかの課題があると考えられる。たとえば,早期介入の対象はどのような精神障害なのか,どのような病態であるのか,早期とはどのような時期を指すのか,何をもって早期と考えるのか,である。また誰が介入を行うのか,介入をどのようにして行うのか,介入後のフォローアップをどのようにして行うのか,介入の効果の評価をどのように行うのか,などと早期介入について検討するべき事項は数多くある。すでに問題が顕現化しており,それに対して早期の介入をするという場合と,当該の問題が顕現化する前に介入するという場合があろう。危機介入といった,より深刻な状態に至る前に緊急の対応を要する場合と,2008年4月より開始されるメタボリック・シンドローム対策のように,リスク要因を標的とした未病の段階でのリスク要因への早期介入というスタンスでは,早期介入の枠組みが大きく異なる。
通常の考えでは,早期介入は二次予防ということになろうが,より早期の介入,つまり一次予防が可能であれば,そのほうがより有用であり費用対効果も高いかもしれない。さらに三次予防は再発予防であるが,これも再発を未然に防ぐ対策という一次予防という意味合いと,再発した場合にはその早期の段階で対応する二次予防という意味と,さらには再発に引き続く二次的問題の発生を予防するという意味での一次予防でもある。
本稿では,まずは職場および産業精神保健の現状と産業保健の仕組みについて述べる。そして,具体的展開事例として,危機的状況での早期介入と,最近開始された過重労働によるメンタルヘルス不調者への早期介入の仕組みについて紹介する。最後に,産業精神保健における今後の早期介入のあり方について検討する。
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