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はじめに
精神疾患への早期介入(early intervention)を論じる時には,“精神障がい”という重い現実は心得ながらも,全治や予防,発症頓挫という大いなる夢を持って語る必要がある。夢で終わらせないために,どのような戦略が必要であるかを考えてみたい。
疾患の早期発見・早期治療がその転帰や機能回復にとっても,さらには医療経済的な視点からも是とされることは,古来医学の常識であり異議を唱える者は少ない。ただし今日では,これには発見後の対応すなわち十分なケアができる技能や資源があり,それにより回復可能性があるというエビデンスの提示が大前提である。もちろん介入手段は安全にして,身体的にも心理的にも苦痛の少ないものでなければならない。欧米や豪州を中心に急速に関心を集め,その実践に広がりがでてきている早期介入は,精神科サービスの諸側面におけるこうした条件が次第に整備されたのと時を同じくして動き出した。
精神疾患の早期介入は,特定の疾患,特に統合失調症のような重篤な精神病をモデルとしたストラテジィだけでは成功はおぼつかない。精神科領域では,どんな優れた専門家がいても,患者さんがはじめから特定の疾患の専門家を目指して受診してくることは少ないし,残念ながら我々は特定の疾患を予測させる確定的で特異的な初期徴候をつかんではいない。夢を実現するには,特定の疾患に対する個別的な診断治療ツールの開発と,普遍的で応用可能な地域システムやネットワークを早期介入というキーワードのもとで同時進行的に発展させていく必要がある。
本特集の各論で各疾患の臨床的な早期段階について語られる共通点は,おそらくはその未分化な症候の問題であったり,早期治療による症状や病態の可逆性についての検討であろうし,さらには早期発見・早期治療を可能とするさまざまな現場や状況についての整理であろう。またこれらに対峙するものとして,精神疾患に対するスティグマや病識をはじめとする脳の疾患に特有の問題が,共通して示されることだろう。いずれにせよ各疾患への早期介入は,各疾患別では成り立ち得ないものであり,精神疾患全体に共通した理解と働きかけが必要になってくる。
そこで本稿では,各疾患における早期介入の実現を図るうえでの共通課題を,1) 脳を中心とする個体へのアプローチ,2) それを取り巻く環境としての社会やシステムへのアプローチ,3) 個体と外部環境のインタラクションへのアプローチに分けて論じてみる。
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