巻頭言
精神障がい者に届く精神科医療とは―仁寿の理念への回帰
川室 優
1,2,3
1(医)高田西城病院
2川室記念病院
3(福)つくしの里
pp.1092-1093
発行日 2007年11月15日
Published Date 2007/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405101094
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精神障がい者(以下,精障者と略す)の地域支援の重要性が指摘されて以来,日本の各地で地域サポートケアシステムが構築されてきた。私は災害県と称される新潟県の上越圏と糸魚川圏の2つの医療圏(約30万人)で,このケアシステムづくり(つくしの里)に約30年にわたりかかわり続けてきた。この間,精障者に対する精神保健施策が多数展開されてきたが,“つくしの里”づくりは,1975年,地域内の共同住居「つくし寮」開設に始まった。法定施設の開設は1992年4月の精障者授産施設(つくし工房)のオープンからで,前年には住民とともに展開してきた地域運動が実を結び法人格を取得した。私どもは精障者が「地域で暮らす」ことを大きな社会復帰理念として,従来から院外作業者の共同住居活動を行っていたのである。当初は精障者に対する偏見・スティグマが強く,医療機関も入院患者が地域内で迷惑をかけることを恐れ,精障者が地域で暮らすことには非常に消極的な時代であった。しかし,その頃まだ精神保健福祉士として資格化されていなかったスタッフらと地道に住居や事業の開拓に努力した結果,手づくり支援の輪が広がり,「つくしの里」のサポートケアシステムを構築することができた。今では当時のことも思い出のひとコマとなりつつあるが,そうした時の流れを感じる現在,生活支援の理念に基づく障害者自立支援法の実施にあたり,この法の問題点(定率負担や利用料など)にも直面しているだけに,改めて当時の取り組みを振り返り,「地域で暮らす」ことをさらに推進する精神科医療のあり方を述べておきたい。
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