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はじめに
本年4月,がん対策基本法が成立し,がん医療の整備と充実が社会の注目を集めるようになってきている。がん医療における心のケアも行うことが記されており,これからは心のケアを行うことが医療者の義務となった。
元来,がん医療は集学的医療である。外科,内科,放射線科,看護などが集まり,手術,化学療法,放射線医療におけるチーム医療を展開することで治療成績を上げてきた。治療成績が向上すると,今度はがん医療の質を上げることが大切となる。治療成績の向上と近年における告知率の上昇は,社会と医療者の両者に対し心のケアに対する関心を寄せるきっかけを作り,サイコオンコロジーが発展する基礎となった。サイコオンコロジーの発展はがん医療の進歩とともに歩んできたといってよいと思う。こうして精神科もチーム医療の一員としてがん医療に加わったが,その活動は確固たる診療報酬制度に担保されたものではなく,自発的な要素も大きかった。
わが国では1986年11月河野博臣先生(故人),武田文和先生(埼玉医科大学客員教授)らが発起人となり日本臨床精神腫瘍学会(JPOS)が結成され,1987年に第1回学術大会が開催された3)。
学会創設当初は,がん性疼痛,告知の是非などの問題が討議されていたようであるが,現在は当時からの問題に加え,鎮静,倫理,緩和ケアチーム,コミュニケーションスキルなど幅広い領域を扱うようになってきている。学会員は600名を超えるが,これは各国別の会員数としては最も多い。
この間,制度面での改革もみられた。最も大きなものは2004年に設けられた緩和ケアチーム診療加算制度であろう5)。この制度は一定の経験を有する身体科医師,精神科医,および看護師がチームを作り,がん患者さんの身体的,精神的苦痛に対応する場合,その活動に対して一定の診療報酬を加算するというものである。この制度の最大の特徴は,精神科医の参加が必須となっていることである。これはわが国独自の制度であるが,①がん医療では治療中・終末期を問わず精神医学的な有病率が高いこと,②精神症状の見逃しが多いこと,③精神症状はがん患者さんにとって苦痛であること,④患者さんの自己決定および医療者の病態判断を鈍らせる可能性のあることから1,2,4),がんの臨床現場に精神科医を加えることが望ましいとしたこの医療制度は優れた制度であるといえる。医療費削減の流れの中でこの制度ができたことは,がん医療の総合的な質を上げたいという,国を挙げての流れを確実なものにした。
精神科医はごくわずかな精神症状であってもそれを見出し治療ができるという専門性,医療者・患者間,医療者間同士を橋渡しする能力,コミュニケーション能力を有している。したがって緩和ケアチームの中でもその能力を生かした仕事ができるし,まさに適任であると考える。
オピオイドの使用については慣れていないかもしれない。しかし,私たちは精神症状を評価し薬剤の量と種類を決めるという臨床的な実践を長い間行っている。オピオイド処方は,患者さんの痛みの場所,程度を聞き,オピオイドの量と種類を決めることが基本である。これは私たちが日常行っている精神医療にきわめて類似していることから,オピオイドにもすぐに習熟することが可能だと思う。ましてや,オピオイドの副作用である吐き気,嘔吐の治療はプロクロルペラジン,ハロペリドール,リスペリドンなどの抗精神病薬が中心である。これらは私ども精神科医が作用,副作用の細部まで知り尽くしている薬剤でもある。精神科医の役割は,がん医療において尽きることがない。
今回の特集では,わが国を代表するサイコオンコロジストの先生方に緩和ケアチームにおける精神科医の役割についてご意見を述べていただいた。緩和ケアチームでも指導的な役割を演じている先生方であるので,私ども精神科医ができること,抱えている問題点そして限界点などが明らかにされると思われる。緩和ケアチームにおける疑問の解決,今後歩んでいく方向性が明確になるだろう。
また,がん緩和医療に携わる代表的な先生方に,精神科医に対する要望をお願いした。現場の第一線でがん治療も行いながら緩和ケア活動も熱心に行われている先生方のご意見,ご批判が聞かれると思う。私たち精神科医は,これら先生方の意見を真摯に受け止め,今後の医療を展開するための足がかりにする必要があるだろう。
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