書評
―本橋伸高責任編集―気分障害の薬物治療アルゴリズム
山脇 成人
1
1広島大学大学院・精神神経医科学
pp.1345
発行日 2003年12月15日
Published Date 2003/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405100761
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最近のEBM(evidence-based medicine)の理念は精神科治療においても重要な位置を占めており,気分障害の治療においてもいくつかのガイドラインやアルゴリズムが報告されている。国際精神科薬物治療アルゴリズムプロジェクト(IPAP)の一環として,わが国でも精神科薬物療法研究会(JPAP)が結成され,筆者も参加して1998年に初めてわが国の統合失調症と気分障害の治療アルゴリズムを報告した。しかしその後,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI),セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)といった新しい抗うつ薬が市販されるようになり改訂が強く求められていた。また,厚生労働省精神・神経疾患委託費でも気分障害の治療ガイドライン作成に関する研究班が組織され,責任編集者である本橋氏が主任研究者を務め,わが国の気分障害の新しい治療アルゴリズムが検討された。本書はその成果を集大成したものである。
最近のわが国の精神疾患の診断と治療は,アメリカ精神医学会(APA)のDSM-Ⅳや治療ガイドラインにあまりにも影響を受けすぎているとか,若手の精神科医がこれらのマニュアルに依存しすぎて病状の背景にある精神病理をじっくりと考察しないなどの批判をよく耳にする。精神疾患は身体疾患と異なって個別性が強く,総計学的なデータがそのまま個人に当てはまらないことも多いが,かといって従来の主治医の経験と勘による治療をそのままにすることはできない。また,わが国では根拠のない多剤併用が多く,諸外国の研究者からも指摘されているので,教育的な観点からも標準となる治療基準は必要である。
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