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本邦 臨床薬理の到達点を示す書
第2世代抗精神病薬が我々の臨床現場に登場して,すでに10年が経過しようとしている。この薬剤の登場とほぼ軌を一にしてわが国でも,統合失調症治療が随分変化してきた。特に薬物療法の分野では,急性期から維持期への治り方そのものが問われるようになってきている。病を持つ患者の生活を最終的にいかに豊かなものにしていけるかだけでなく,いかに患者に負担の少ない自然で綺麗な経過でそこまで到達できるかが問題とされてきている。終わりよければすべてよし式の治療は今や完全に否定されている。
そんな臨床現場の潮流の中で本書は企画され,今回1998年に発表された日本版アルゴリズムの改訂版として刊行された。アルゴリズムは臨床研究によって得られた実証的証拠に基づいて作製された治療手順である。統合失調症の薬物療法の基本が網羅されていると言ってよい。臨床薬理を専門にしている者にとっては,アルゴリズム自体は当たり前のことが簡潔に記載されることが多いので,この手の本は退屈なものが多い。しかし本書では,解説に十分な紙面を割き,その内容も臨床的なセンスに富み,手軽な総説としておもしろく仕上がっている。それは解説にオピニオンの意見も適宜採用して,より臨床現場の細部にまで行き届いた記載がなされていることも一因である。特にわが国オリジナルのエビデンス,オピニオンに重点をおいた編集方針は,現在のわが国の臨床薬理の到達点を示すものであり興味深い。さらに本書は,有害事象の評価と対策にアルゴリズム全体の半分以上の紙面を割いていて,その解説もていねいである。体重増加,代謝障害,突然死など最近話題の有害事象への対応も今回取り上げられた。これは,患者に負担が少ない自然で綺麗な経過を求める最近の臨床薬理の動向と合致するものであり,この本の編集に当たった精神科薬物療法研究会の意図もここに読みとれる。
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