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はじめに
児童相談所は,子どもの福祉という観点から低年齢の非行や虐待問題にかかわることが多い。本シンポジウムのテーマである「攻撃性・衝動性を示す子ども」を考える場合,それと強く関連する非行と虐待の相談の実態をみることで,おおよその輪郭がたどれるのではないかと考える。本稿では最近の児童相談所での調査や児童福祉現場で抱える事例を紹介し,養育環境と子どもの攻撃性の実態と対応の課題を示したい。
1. 児童相談所について
児童福祉法に基づき全国に187か所(2005年4月現在)設置され,原則として18歳未満の子どもに関する多様な問題を取り扱っている。相談内容の統計は,養護,保健,障害,非行,育成(性格行動,不登校,育児・しつけ)などに分類,集計されているが,全体の相談件数の中では知的障害・肢体不自由をはじめとする障害相談がおおよそ半数を占めている。歴史的には,戦後の孤児・非行,そして不登校など,その時代特有の課題に対応してきた。今日では深刻な児童虐待に即応できる強制権を持つ児童福祉の行政機関として注目されている。
一般に相談が受理されると,児童福祉司による調査(情報収集)が開始され社会診断が行われる。必要に応じて児童心理司による心理診断,医師による医学診断,子どもを保護した場合にはその行動診断も加わり,さまざまな視点から総合的に事例が検討され支援内容が決定される。児童相談所が児童福祉法に基づいて行う支援のうち最も濃密なものに,子どもを家庭から預かり社会的養護を行う「施設入所または里親委託」がある。これは年齢と状態に応じて乳児院,児童養護施設,児童自立支援施設などへの入所,また件数は少ないが里親に委託するものである。「児童福祉司指導」は行政処分で児童相談所への強制的な通所または家庭訪問により複雑な家庭環境に起因する問題を改善させることを目指している。そのほか専門的技術をもって計画的に指導・支援する「継続指導」,関係機関などと協力しつつ助言などを行う「助言指導」があり,個々に合わせて選択されている。
2. 児童相談所が受ける最近の相談(図1)
筆者の勤務する東京都では,その11か所の児童相談所で年間およそ3万件の子どもに関するさまざまな相談を受理しており15),全国の児童相談所の約1/10の規模となっている。2004年度には虐待相談が3,019件で相談件数全体の10%,非行相談は1,651件で6%を占めた。この2つの割合は高いものではないが,図1に示すように虐待相談は2年前の1.5倍,5年前の2.4倍と大幅に増加し非行相談も2年前の1.5倍と増えている。同時期5年間の東京都の児童人口(住民基本台帳による18歳未満の人口)は-1.1%微減しており,両相談件数の増加は最近の大きな変化であると読み取れる。その背景には養育環境の問題があり,後述するような攻撃性や衝動性を示す子どもが高率に含まれる。子どもと家族に問題の認識や改善の意志が乏しい場合が多く,介入や支援が難しいことも共通している。ちなみに図1に示した不登校に関する相談は5年前に比べ2割ほど受理件数が減ってきている。これは一般に不登校児に教育機関が柔軟に対応できるようになったためで,依然として児童相談所に持ち込まれる不登校事例は福祉的視点が重要となる場合が多い。
このように児童相談所は必要に応じて相談意志のない家庭に対しても直接働きかけたり,地域・関係機関と連携しながら子どもの福祉の向上を図ることができる特徴を持つ。他の相談機関よりも家族機能に重篤な問題がある事例に長期間対応することが可能で,今日この非行と虐待には児童相談所の機能を最大限に発揮して取り組んでいる。
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