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はじめに
これといった明るい希望が持てないまま新世紀を迎えた人が多い世情背景の一つに,児童虐待の急増ぶりも見逃すことができないであろう。一方,高齢者虐待は,それだけ影が薄くなっているようにも見えるが,実態はこれまでどおり早急の対応が求められていることに変わりない。
現在に比べたら在宅高齢者の実態がほとんどわかっていなかった19年ほど前,横浜市が行った痴呆性高齢者の実態調査に参加し,対象となった家庭の奥まで入る機会があった。そこで,診察しながら見た光景の一部はかつて聞いたことも予想したこともない高齢者虐待そのものであった。この時の体験をもとに,息子の暴力や嫁のいじめに耐え兼ね,逃げ込んでくる高齢者のための宿泊施設(ハマノ愛生会・高齢者よろず相談所「柏の家」,横浜市西区)で調査した34例(1984〜1985年)に,横浜市内全15保健所にアンケート形式の調査を行い,その中で報告された27例(1985年)を加え,比較検討したものが,極めて小規模ながら,図らずもわが国における最初の高齢者虐待に関する実態調査となった3)。当時,多くの協力者を得た一方,高齢者虐待の存在自体を否定する人,信じようとしない人,調査そのものを快く思わない人にも遭遇した。こうした状況の中で,根拠は極めて不十分であるが,わが国全体での被虐待高齢者数は,どんなに少なく見積もっても15〜20万人以上であろうと推測した3)。
その後,全国的な規模の調査研究が,田中ら11),高崎ら10),大國ら9)によってなされ,わが国における高齢者虐待を概観することができるようになったが,その実態の解明や対策への研究は正にこれからと言わざるをえないのが実状である。
高齢者虐待は,欧米においてもわが国においても,歴史的には児童虐待の後を追う形となっており,その遅れは研究面ばかりでなく,世間一般の認識,関心度の低さから法整備,施策などに基づく社会的対応策に至るまであらゆる面にわたっている。
高齢者虐待の理解をより一層深めるにあたって,一歩先を行く児童虐待を参考にするとともに,人の一生のうち身体的対極にある「成長期」との比較の意味も込め,高齢者虐待と児童虐待および児童との関係について触れてみることにした。
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