書評
モーズレイ 実地精神医学ハンドブック
青木 省三
1
1川崎医科大学精神科学
pp.815
発行日 2006年7月15日
Published Date 2006/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405100303
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本の紹介に入る前に,訳者の洲脇寛先生のことを記したい。洲脇先生は私が研修医だったころ,その大学病院精神科の病棟医長をされており,私にとっての精神科医の最初のモデルであった。
ある時,急性期の患者さんが離院しようとでもしたのか,閉鎖病棟から勢いよく走り出てきた。それに気づくと,彼はさっと駆け寄り,ふんわりとしかしガッチリと抱きかかえたのだ。そのシーンは私の記憶に今もしっかりと刻まれていて,臨床家のあるべき姿として事あるごとに蘇ってくる。患者さんの意思に反した強制はできる限り少なくしたい。しかし,治療を引き受けた以上,責任を持って治療にあたらなければならない。矛盾した思いであるが,しかし毅然として両立させる。傍らで呆然と立っていた私とガッチリと抱き止めた洲脇先生。その一瞬は私に多くのことを考えさせた。
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