特集 分子遺伝疫学
分子遺伝疫学の倫理的課題と人権
森崎 隆幸
1
1国立循環器病研究センター研究所分子生物学部
pp.768-771
発行日 2010年9月15日
Published Date 2010/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401101897
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はじめに
分子遺伝疫学は,20世紀末からのヒトゲノムプロジェクトにより研究が加速され,2003年にはヒトゲノム配列情報が決定されるに至った,ゲノム科学の発展をベースとしている.分子・遺伝子レベルで疾病リスクを明らかにできることが期待されている,発展の著しい研究領域である.一方で,ゲノム研究の急速な進展とともに,その倫理性の懸念や生命倫理の概念の理解と必要性が認識され,国外では20世紀末にゲノム医療と遺伝子との関係について種々の検討がなされ,国あるいは多国間で規範が制定されるようになっていた1~3).
日本では21世紀にさしかかって,ようやく,国レベルでゲノム・遺伝子解析研究についての倫理規範の作成が行われるようになった4,5).その後,欧米同様,日本でも個人情報保護法が施行されたこともあり,研究者も国の指針や法についての認識が高まり,研究機関での倫理審査委員会の設置などが急速に進んだ.
近年,国内外では,個人ゲノム情報を網羅的に積極的に利用する形でのゲノム研究が医療応用をめざして実施されるようになり,遺伝疫学は研究の中心と見据えられるようになった.さらに,研究の進展は,個人ゲノム情報をどのように捉え,どのように保護することが必要であるかについて,考え直す必要性を生んでいる.
本稿では,個人ゲノム情報を扱う遺伝疫学の近年の進展と関連する倫理的問題について述べ,今後,どのように倫理的取扱いをすべきかについて論ずる.
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