書評
抗うつ薬の功罪―SSRI論争と訴訟
江口 重幸
1
1東京武蔵野病院
pp.216
発行日 2006年2月15日
Published Date 2006/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405100220
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20世紀末から21世紀はじめの精神医学をめぐるシーンを描いた書物を1冊だけ薦めるとしたら,私は迷わず本書を選ぶ。この本では,うつ病とグローバル化した巨大製薬産業との「不健康な関係」(原著副題)が論じられ,抗うつ薬SSRIが持つ服用者の自殺衝動を昂める副作用が中心に据えられている。具体的な事例や,SSRI誕生の歴史,製薬企業の市場戦略,さまざまな精神薬理学者の役割,SSRIの服薬実験や裁判経過がこれほど詳細に示されたことはないだろう。
間違っては困るが,本書はSSRIや向精神薬の薬害や,製薬企業一般を追及する単なる告発本ではない。それは著者のヒーリー自身が世界屈指の精神薬理学者であり,産官学の内部事情に誰よりも精通した研究者であること,さらに彼の,世界の精神薬理学者にインタビューした浩瀚な著作『Psychopharmacologists』や,今日最も信頼できる向精神薬のマニュアルで2005年4版を重ねた『Psychiatric Drugs Explained』を読めば理解できる。
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