巻頭言
降圧治療におけるJ型カーブ現象についての私見
菊池 健次郎
1
1旭川医科大学第一内科
pp.1161-1162
発行日 1998年12月15日
Published Date 1998/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404910091
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高血圧患者,とくに心血管合併症を有する患者の至適血圧レベルの設定は極めて重要な課題であるが,未解決の点が多く残されている.
高血圧患者の血圧値が一定以下のレベルに下降すると,梗塞性血管合併症の発症あるいはそれによる死亡が増加する可能性については,かなり以前から指摘されていた.しかし,この問題がJ型カーブ現象として一般に注目されるようになったのは,Cruickshankら(1987年)が降圧レベル,とくに拡張期血圧値と心筋梗塞(MI)による死亡率との関係を報告して以来である.彼らは,治療開始時点で虚血性心疾患(IHD:虚血性心電図変化など)を持たない群では,拡張期血圧値が低いほどMIによる死亡率が低率であるのに対し,IHDを有する群では,拡張期血圧が85〜90mmHgで最も低率となり,これより低い血圧レベルでは逆に死亡率が高くなることを示した.すなわち,85〜90mmHgにJ点(最低値)を有するJ型カーブの関係を指摘し,Framingham研究(1991年)でも追認された.一方,IHDの既往とは無関係にJ型カーブ現象が存在し,この現象は男性(DHCCP:Department of Health andSocial Security Hypertension Care ComputerProject,1988年),あるいは60歳以上の群でのみ認められ,これは降圧薬の種類に依存しない可能性などが指摘された.これらはいずれも拡張期血圧に関するJ型カーブ現象であるが,収縮期血圧についても,特に老年者を対象とした研究でJ型カーブ現象を支持する報告がなされた.
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