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■最近の動向 肺の線維化は炎症,肺組織の傷害・破壊,再生と線維化の過程を経て線維化するものと考えられている.特発性肺線維症の原因は未だに不明であり,また,その病態形成の機序も種々の観点から検討され次第に明らかになっているが不明な点が多く,治療法も確立されていない.肺の炎症から組織傷害をもたらす原因として好中球エラスターゼ,活性酸素などが考えられていたが,アポトーシスに関しては不明であった.アポトーシスは細胞・組織・生体の機能を正常に維持していくうえで重要な現象であるが,逸脱したアポトーシスは生体の機能を傷害するために,肺線維症においても組織傷害,再生とアポトーシスの関連性を明らかにすることは重要な課題であった.今回紹介するように,肺維線症におけるFasとFas ligand,アポトーシスの存在が明らかにされた.今後,肺線維症におけるアポトーシスの意義を解明するために,アポトーシスを抑制するBcl 2発現とその発現調節の解析,アポトーシスを誘導する細胞内シグナルの解析などの研究の発展が望まれる.特発性肺線維症に対する治療の主眼は,炎症,組織傷害と線維化の進展の抑制,正常組繊の再生の促進である.ステロイド薬が症例によって使用されているが,その有効性は確立していない.このために,新しい治療法の開発が望まれ,サイトカインの役割の解明とともに抗サイトカイン抗体や可溶性サイトカイン受容体の治療効果の検討が行われてきた.さらに,先に述べた好中球エラスターゼの作用を阻害する抗原性の少ない薬剤の開発が進み,肺線維症においてもその効果が期待され,動物モデルとともに臨床治験が進行中である。炎症から組織傷害の抑制とともに重要なことは組織の再生を促す治療である.この点に関して,肝再生因子(Hepatocyte growth factor:HGF)の生物学的作用の解明の進歩や肝傷害,腎傷害など多彩な臓器傷害における治療効果の基礎的検討の成績は肺線維症に対する治療への応用に期待を抱かせる.肺の炎症,破壊,線維化の制御のみならず,肺組織の再生を促す治療法の進歩も重要な課題である.
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