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はじめに
損傷された組織や臓器を修復し,元の状態に戻す再生治療は,臨床医にとって非常に魅力的で,社会的にも大きな期待を背負った研究分野である.具体的には,再生医学は,多分化能を有する前駆細胞を用いて発生過程を生体内あるいは生体外で模倣することにより新しい組織や臓器を作りだしていく医療と定義される.内科領域の呼吸器疾患においては,難治性で現在のところ有効な治療法のない特発性間質性肺炎,ならびに広範に肺組織が破壊される肺気腫などへのアプローチが期待される.
比較的単純な構造からなる皮膚や軟骨などの臓器ではすでに臨床応用も開始されているほか,神経系組織,肝臓,心臓などの複雑な構造からなる臓器においても,動物を用いた基礎研究が活発に行われており,新たな知見が蓄積されつつある.しかし,肺や消化器などの原腸陥入を伴って発生する内胚葉系の細胞,臓器の前駆細胞からの分化誘導は一般的に難しいとされており,肺の再生治療の研究はかなり遅れている状況である.しかし,近年のマウスにおけるエラスターゼによって惹起された肺の気腫性病変が,レチノイン酸の投与により新たな肺胞の形成により改善されたとする報告1)以来,ヒトにおける肺の再生の可能性が現実味をもって論じられはじめた.
一般的に組織の再生は,SEED(種子)とSOIL(土壌)の双方の因子より成り立つとされているが,SEEDは多分化能を有する前駆細胞であり,SOILとは分化誘導因子である(図1).前駆細胞としては胚性幹細胞(ES細胞)や組織幹細胞があり,分化誘導因子としては増殖・成長因子や転写因子などが挙げられる.
肺の再生治療へのアプローチとして,他臓器と同様に,①ES細胞を利用する,②組織幹細胞を利用する,③細胞工学を利用する,④組織修復・再生因子を利用する,のいずれか,もしくはすべてを活用する方法が考えられる(図2).各々に関して,これまでの報告を中心に,肺の再生治療への可能性や問題点などを概説したい.
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