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はじめに
特発性間質性肺炎は有効な治療法の確立が切望されている疾患である.現在,この疾患に対する遺伝子治療は動物実験レベルで試みられてはいる.このような実験系で導入した遺伝子産物が抗線維化作用を発揮することは,いうまでもなく必須のことであるが,患者に応用するにあたっては,肺にタンパクではなく遺伝子として導入し,発現させることに利点が見出せる場合に初めてこの治療法の合理性が見出せる.後述するように,ベクターには改良の余地があり,しかも臨床では導入遺伝子と,それを含むベクターが不用意に拡散することを防止し,周辺環境を汚染しないような配慮をした施設設備の設定と,それに伴う患者側と医療側の物理的,精神的,経済的負担が生ずることに配慮しなければならない.したがって,どのような場合にも遺伝子の形での導入に固執することが得策となるわけではない.このような問題点を踏まえたうえで,現時点での特発性間質性肺炎の遺伝子治療の可能性を考えてみる.
肺細胞への生体内遺伝子導入が可能となって10年余りになるが,特発性間質性肺炎に対する遺伝子治療のヒトへの応用はおろか,現状は理論的基礎の確立にも至ってはいない.遺伝子治療の最も有望な対象は単一遺伝子の異常による嚢胞性線維症などに対する補充療法であるが,このような疾患に対しても遺伝子治療はまだ標準的療法とはなっていない.より複雑な病態を持つ特発性間質性肺炎の治療法開発の困難さは容易に想像がつき,この茫漠とした対象を前に,自らの研究の方向性に不安を抱いたことは,この分野に携わる者は誰しもあるのではないだろうか.問題は以下の2点に集約されると考える.一つは遺伝子治療に特有で他臓器への遺伝子導入にも共通の,ベクターの問題である.もう一つは特発性間質性肺炎に固有の,どのような因子が有効で,どのようにそれを検討するかという点である.
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