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肺は再生する臓器か?(修復,成長,再生)
1. 修復(repair):破損した箇所を作り直すこと(大辞林第3版)
肺の修復は,肺炎・ARDS(acute respiratory distress syndrome)などでダメージを受けた肺組織で,日常的に起きている現象である.これらの急性肺傷害により,肺胞・気道上皮,血管内皮細胞は傷害を受けアポトーシスなどの細胞死を起こす.これらの傷害を受けた細胞は,新たに分裂増殖(場合によっては分化)した細胞によって置き換わられる必要がある.そのためには,分裂増殖する細胞が必要であり,これらの細胞の数,機能の違いは病態の治癒過程に大きな影響を与えることが示唆される.肺内の幹細胞動態はまだ明らかではないが,市中肺炎症例において末梢血中の血管内皮前駆細胞の数が肺炎症時に増加することが報告された1).ただ,症例によっては同程度の炎症反応にもかかわらず,血管内皮前駆細胞が増加する症例と増加しない症例があり,個人差が認められた.血管内皮前駆細胞が増加しない症例においては肺の組織修復の遅延が認められ,この前駆細胞の数の多少が肺組織修復に影響を及ぼすと考えられた.また,前駆細胞の数が少ないということは,肺組織中の幹細胞数も少ないことが予想され,組織修復と幹細胞数の関連が考えられる.市中肺炎症例と同様に,ARDS症例においても,血管内皮細胞数が多い症例で生存率が有意に高いことが示され2),急性肺傷害における前駆・幹細胞の重要性が示唆されている.これら急性炎症後の肺修復だけではなく,COPD(chronic obstructive pulmonary disease,慢性閉塞性肺疾患)症例において末梢血中の造血幹細胞と血管内皮前駆細胞数が少ないとの報告があり3),慢性炎症時の肺組織修復においても前駆・幹細胞の存在が重要であることが示唆される.
2. 成長(growth):物事の規模が発展して大きくなること.個体・器官・細胞の形態的あるいは量的増大を伴う変化(大辞林第3版)
肺の再成長モデルとして,片肺全摘モデルが用いられている.肺全摘後,残存肺の代償性再成長が認められる.この現象は成人犬など大型動物でも認められる.この代償性肺成長は,全摘後の残存肺過膨張を抑制することにより生じなくなることから,ストレッチなどの機械的刺激が成長シグナルになっていると考えられている4).肺全摘後残存肺では肺胞レベルでII型肺胞上皮の増殖がまず生じる5).また,血管内皮細胞の増殖と肺動脈の造成も認められる6).この血管系の増殖のシグナルとして片肺全摘後の残存血管への血流増加(約1.7倍となる)によるシェアストレスが関与していると考えられている.また,増殖因子などの薬物投与によってこの肺再成長が促進されるかの検討も始まっており,all-trans retinoic acid(ATRA)7),hepatocyte growth factor(HGF)8),granulocyte macrophage colony-stimulating factor(GM-CSF)9)などの投与によって,動物モデルでは肺の再成長が促進されるとの報告がある.しかし,ATRAによる肺成長は肺機能改善に寄与しないとの報告もあり10),今後の検討が必要である.また,COPDや肺癌など多くの肺疾患は高齢者の疾患である.この肺再成長が,ヒト高齢者でも起こりうるかはまだ明らかではない.最近,HR-CT(high resolution-computer tomography)を用いたCOPD肺11~13)や残存肺14~16)の計測が行われている.今後このような技術が用いられ,高齢者における肺成長の有無が明らかになるものと考える.
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