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はじめに
近年,医療に対する医師の態度が変化してきた.疾患が治癒せず何らかの機能障害や後遺症を残した時,医師は治癒のみを追求する態度を,患者・家族のQOLの維持・向上を図るために機能障害や後遺症の克服をめざす態度に転換するようになった.このような医療に対する態度が変化してきた背景には,治癒しない慢性疾患を有する患者の増加や治療法選択を患者自身の決定に委ねるべきであるとする声の高まりがある.呼吸障害に対する対応,特に非侵襲的呼吸管理法の開発・臨床応用の経緯をみても,医療に対する医師の関わり方の顕著な変遷を認めることができる.
非侵襲的呼吸管理法開発の歴史は1920年後半の「鉄の肺(iron lung)」に遡る.「鉄の肺」はchest respirator(CR)に発展し,1930年代後半に多発したpoliomyelitisの呼吸不全の治療に使用されたが,その後あまり普及せず今日に至っている.1980年代中頃になり,CRの陰圧式人工換気法とは対照的な非侵襲的陽圧換気法(noninvasivepositive pressure ventilation;NPPV)が登場した.この15年間にNPPVは神経筋疾患がもたらす呼吸不全の治療法の大きな潮流に発展し,今や非侵襲的呼吸管理法の代表格であると目されている.
NPPVに関しての最初の記載は,筋ジストロフィーの呼吸不全患者に鼻マスクによる間欠的陽圧換気(nasal mask intermittent positive pres—sure ventilation;NIPPV)を施し,呼吸不全が改善したというDelaubierの報告1)である.その後,神経筋疾患の呼吸不全に対するNPPVの有効性を支持する報告が相次いだ2〜6).本邦では,大竹が1988年に筋ジストロフィーの呼吸不全にNIPPV治療を導入した7).著者も1990年7月にデュシェンヌ型筋ジストロフィー患者に導入し,長期にわたる管理が可能であることを確認した.本邦では筋ジストロフィー病棟を有する国立療養所の大半が,既にNIPPVを導入しており,今や筋ジストロフィー呼吸不全治療の第一選択として定着した.
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