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肺における血管系の病態に関心が高まっている.肺移植と関連して原発性肺高血圧症の病名がメディアに取り上げられることも多くなったし,平成8年度に発足した厚生省特定疾患呼吸不全調査研究班で対象とすべきとされた6疾患に含まれていた原発性肺高血圧と慢性肺血栓塞栓症が,平成9年度と平成10年度にそれぞれ厚生省から治療対象疾患として認定された.ともに難病として知られた稀少疾患であり,診断が容易でないこともあり,決して日常診療でしばしば遭遇するものではないが,治療対象疾患として認定されたことは,重症度に応じて医療費が公費負担されるなど患者の負担軽減につながるのみならず,医療社会で認知される結果,診断される患者数が増え,医学情報が増え,実態のより正確な把握につながることと思われる.
これらの疾患はいずれも有効肺血管床の減少のために高度の肺血管抵抗増加を来していることが病態生理上の特徴であるが,病変の主座が原発性肺高血圧症では肺動脈の細いところ(細動脈),慢性肺血栓塞栓症では肺動脈主幹部から亜区域枝までの比較的太い肺動脈に存在することが両疾患の相違点である.慢性肺血栓塞栓症では血栓内膜摘除術が有効であるが,それは外科的にアプローチできるところに病変の主座があるからであり,そのことが不可能な原発性肺高血圧症では手術的には肺移植しか方法がないことになる.慢性肺血栓塞栓症で器質化血栓がどのようにして比較的太い肺動脈にできてくるのかは現在も不明であるが,血栓内膜摘除術が有効である理由として閉塞部より末梢の肺動脈は内腔が空いていることが前提であり,実際,術中,肺動脈中枢部で血流遮断した状態で肺動脈内器質化病変部を摘出すると末梢部から動脈血化した血液が逆流してくるのが確認される.通常は機能していない気管支動脈と肺動脈の吻合を介して気管支動脈血が閉塞部より末梢の肺動脈を灌流していることが予想される.場合によっては気管支動脈以外の内胸動脈,肋間動脈などからも血流を受けるようになる.原発性肺高血圧症例で肺動脈鋳型標本を作成してみると細い血管が少なくまるで枯れ枝状になっているのが観察される.なぜ新しい血管が新生してこないのか.
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