巻頭言
科学の進歩と環境倫理
高橋 敬治
1
1金沢医科大学呼吸器内科学講座
pp.3
発行日 1999年1月15日
Published Date 1999/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404901823
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科学としての医学医療の進歩は,人口の高齢化をもたらした.また,医療技術の進歩は,遺伝子操作・生殖の操作・臓器移植などを可能とし,以前にもまして,その時代の社会環境,自然環境に立脚した新たな医療倫理の規範の確立が求められている.科学の進歩はわれわれの日常生活を一見快適ですこぶる便利なものへと変えた.しかし,この便利で快適な生活を支えるために森林を破壊し,エネルギー源として莫大な化石燃料を消費している.「有限の化石燃料を現代世代で使いきってしまってよいのか,環境や資源の問題の加害者が現代世代であり,その被害者は未来世代であってよいのか」という疑問に応える環境倫理の基盤の確立が求められている.
現在,人類は生態系の頂点に君臨し,自然を利用することによって生存している.すなわち,人類は知的レベルの高さを活用し,地球から資源と化石エネルギーを獲って,本来食料限界によって決定される,地球の個体生息数を越えた人口を維持している.本来,太陽エネルギーだけを頼りにして生きている生物としての限界を越えている.固体としての地球や海ができたのは45億年前,生物が初めて海水中で誕生したのは38億年前であり,地球の原始大気には酸素ガスは皆無であったとされている.初めて海水中に誕生した生物は,それ以後34億年もの長い間海水中で進化を繰り返し,緑色植物がすべての酸素を作ってくれた.人間が生存するのに最も快適な大気環境としての21%の酸素ガスと0.03%の二酸化炭素ガスの環境は,全て原始的な生物が産生したとされている.
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