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はじめに
肺気腫に対する外科治療として肺縮小手術(volume reduction surger:VRS)が提唱されたのは1950年代のことである1).これは標準的後側方開胸による手術で,当時の手術手技や術前および術後管理が現在のものほど進歩していなかったせいか,十分に普及するほどの成績をあげることができなかった.特にこの手術にとって,現在では最も重要であるとされる手術適応を決定する際のCTや換気および血流シンチが当時は行えず,適応の難しい患者に対しても手術が行われていた可能性がある.また更に考えられることとして,後側方開胸では胸壁の筋肉を損傷し,これが術前から十分に低下していた呼吸機能に更に悪影響を与えた可能性もある.この2点が複合的に作用して,この術式は広まるに至らなかったのではないかと想像される.
1990年前後から,胸腔鏡下手術で肺の容量を減少させ,肺気腫患者の症状の軽快と呼吸機能の改善を得られるという報告がみられるようになった2).当初は胸腔鏡下手術というアプローチで炭酸ガスレーザーを使用し,肺の表面を焼灼することでVRSを行っていた.レーザーにより蛋白が変成し,臓側胸膜が収縮するという原理でVRSを行う手技が報告された.同様のコンセプトで,これに引き続いてアルゴンビームを用いて同様の手技を行う方法が紹介されたが3),これらの手技では臓側胸膜が硬化し,コンプライアンスが正常化するという効果はあるが,容量を減少させるという効果は少なく,また遅発性自然気胸といった困難な合併症がみられたことから批判的な意見もみられた.1993年前後になって内視鏡下手術で使用できる自動縫合器が導入されると,現在行われているような気腫肺切除術と,切除が困難な部位に対する追加的Nd:YAGレーザーの焼灼で,VRSの良好な手術成績が報告された4).肺気腫に対する肺移植術以外の外科的治療が再び注目を集めるようになった.しかし,この治療方法は医学雑誌に掲載されたり学会で報告されるのと相前後して,一般のマスコミで広く取り上げられ,その取り上げられ方が新しい治療技術であることを特微づけるためか,実際には肺容量を減少させるという意味では,既に補助的な使われ方であったレーザーの使用を特に強調するものになっていた.このようにして,腹腔鏡下の胆嚢摘出術が広まってきたように,医師の側が積極的に広めるのではなく,患者からの要請で手術が広まるという形の普及方法で行われるようになった.
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