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はじめに
心房細動は,その罹患率が全人口の0.4〜O.9%ときわめて高く,心房期外収縮,心室期外収縮についで臨床的によく遭遇する不整脈である.この不整脈は致死的なものでないという理由により,見過でされてきた側面が拭えないが,最近になりにわかに注目されるようになった.
この理由として以下の2点があげられよう.まず第一に,今日の高齢化人口の増加が挙げられる,心房細動の頻度は,老化に伴い著明にその頻度が増加するため,高齢化人口の増加に比例して日常臨床でこの不整脈に遭遇する機会が増加している.医師として十分に認知しなければならないことは,この心房細動が単に症状を起こすという側面から治療を要するというだけでなく,この不整脈が脳梗塞の危険率を約5倍に上昇させるという事実である.過去とは異なり現在では,脳塞栓症の約1/3は心臓弁膜症を伴わない心房細動によるものと考えられている.逆に考えれば,心房細動の発症を予防することで多くの脳塞栓症を救えるわけである.さらに心房細動は,その不適切な心拍応答性から運動耐用能を低下させる.以上のような点から高齢化人口の増加に伴い,特に老齢者のQOL維持にとって心房細動の意義が改めて重要視されている.
第二に,カテーテルアブレーション法の普及,発達に伴い,心房細動を除く多くの上室性不整脈の根治的治療が可能になったことが挙げられる.このような治療法の発展が,逆に治療に難渋することの多い心房細動という不整脈に,より認識を集めさせたというある意味で皮肉な側面がある.しかし,このように俄然注目されるようになった心房細動に対する根治的な治療法はいまだ存在しない.現状では,種々の抗不整脈薬が経験的に用いられているものの,その効果はpartialにすぎない.そのため新しい治療戦略が求められており,現在でも心房細動に対するカテーテルアブレーション,植え込み型除細動器など,新しい治療の試みが模索されている.
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