巻頭言
循環器領域におけるアポトーシスについて
藤原 久義
1
1岐阜大学医学部第二内科
pp.531
発行日 1997年6月15日
Published Date 1997/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404901488
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心理学領域では人間が自己を破壊したいという欲求を持つことは,従来から知られていたが,生物学の領域では生きようとする欲求や子孫を殖やそうとする欲求のみが強調され,死のうという欲求が生物にあることは深く考えられなかった.しかし,最近生物学の領域において生命の本質である遺伝子が自己を破壊するという意志を持ち,この装置を発現することなしに生命は存続しえないということが明らかになった.以下で示すようにこれがアポトーシスである.
1972年,Kerrらは,ネクローシスとは異なった特徴的な形態変化を来して死んでいく細胞の死を,アポトーシス(apoptosis:apo=off, ptosis=falling)と名づけた.これはギリシャ語で「木の葉が自然に落ちる」という意味である.アポトーシスは遺伝子により制御された細胞死で発生・器官形成,正常な細胞のターンオーバー,ホルモン依存性の組織萎縮,および免疫系における生体防御機構における不要な細胞の除去機構であることが解っている.生体の構造は,細胞の増殖とアポトーシスのバランスによって成立する.すなわち,細胞増殖とアポトーシスが同じでバランスがとれている時は形態(細胞数)は同じに保たれる.前者が後者より多いと形態は大きくなりhyper—plasiaが生ずる.前者より後者が多いと細胞数は減少し,atrophyを生ずる.
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