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はじめに
呼吸困難の定義は各人により微妙に異なり,正確に述べるのは難しい.ここでは,呼吸に伴う病的に不快な感覚を認知すること,と簡単に定義して話をすすめよう.
定義ばかりではなく,実際の呼吸困難の起こり方も一様ではない.喉頭水腫・異物の誤飲・気胸・急性肺血栓塞栓症のように突発的に起こるもの,気管支喘息や過換気症候群のように発作性をもつもの,肺炎や肺水腫や心筋梗塞などのように急性に発症するもの,そして肺気腫や間質性肺疾患や心脈管疾患など慢性に進行する呼吸器循環器疾患に伴い徐々に悪化していくものなど様々である.
呼吸困難を呈する際の呼吸パターンもいろいろである.多くの場合は浅くて早い呼吸を伴うが,呼気が延長し,ゆっくり深い呼吸を伴う呼吸困難もありうる.中枢性障害を伴う場合には不規則な異常呼吸を示すこともある.
呼吸困難の訴え方ともなるとさらに難しい.息がきれる,ゼイゼイする,息がつまる,などと患者さんは訴える.筆者の住む地域では,胸がズーズーすると訴えるご老人が多く,当初はまごつかされたものである.Simonらは,健常人を対象に19通りの呼吸困難の表現方法を用意し,8種類の異なる刺激に対する呼吸困難の表現をこのなかから選ばせ,この表現方法を9個のカテゴリーにまで絞り込んでいる1).またSimonらは,翌年この呼吸困難のカテゴリーには異なった疾患が対応する可能性があることを示唆している2).El—liotらも心肺疾患患者を対象に45通りの呼吸困難の表現方法を提示し,12群に分けることができるという3).
しかし,呼吸困難の感じ方は心理的な変容を受けやすい.慢性閉塞性肺疾患でも悪性腫瘍の患者でも,抑うつや不安感が呼吸困難を修飾していることはよく経験するところである.Boothらは,酸素吸入が末期癌患者の呼吸困難解消に有用であるか否かを検討した結果,酸素吸入は効果的であるが,その改善率は圧縮空気吸入時と同等であり,benzodiazepineがその効果を促進したという4).ガス吸入という医療行為が,患者の不安を和らげることにより呼吸困難軽減効果をもったと解釈すべき例なのであろう.
本稿のテーマは「安静時呼吸困難の病態と鑑別」であるが,問題は,このように多様な呼吸困難の起こり方・呼吸パターン・表現方法による鑑別が,呼吸困難の受容・感受・認知という全体の系を十分説明しているかどうかである.呼吸困難自体についてなにが共通の理解となっているかをまず確認し,心肺循環系の病態でみられる呼吸困難のメカニズムについて自験例を交え考察して再度この問題に立ち戻ろう.
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