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はじめに
分子生物学(molecular biology)は約20年前に成功した組替えDNAという工学的手法の開発を中心とした技術体系によって,生物学の理解を革新している.その発展は地球上生物進化に共通する事項の理解から,臨床では遺伝子治療まで広範であり,展開の進行の早さに圧倒されてしまう.そしてともすると,方法論やmolecularな側面にしか目が向かない.しかしながら,この学問は生物学(biology)であって,基本的なbiologyなくして,molecularな解析はなし得ないわけである.われわれ臨床医にとってbiologyとは個々の症例の臨床から何を抽出するかという問題である.
呼吸器領域の分子生物学は欧米における遺伝子性疾患の解析や,気管支肺胞洗浄(BAL)により回収した細胞の解析として始まったが,われわれの目の前にある日常呼吸器疾患としての肺癌,間質性肺炎,肺気腫などの臨床はまだほとんど分子生物学の恩恵を受けていない.呼吸器臨床医が分子生物学の発展に疎遠であるのはこのためである.では,こうした日常呼吸器疾患をいかにして分子生物学の理解の場に引っぱり出し,その知見を有効にfeed backできるのか.私は,常々患者を個として解析すること,あるいはその疾患背景を考える場合に肺のみに注目することに疑問を感じていた.しかしながら,呼吸器疾患においては,ある患者の家族性集積などの背景を解析するという試みがほとんどなされて来なかった.一方,神経疾患ではその臨床症状把握の容易さもあり,従来より多数家系の調査登録がなされている.この基礎臨床調査は現在,直接molecularな解析に結びつき,変性疾患を中心とした原因遺伝子の解明が急ピッチでなされている1).すなわち,神経病学においては臨床的家系調査を媒介として分子生物学に結びついたわけである.こうした状況を考えるとき,いつまでも原因不明として対症的な治療にとどまる多くの呼吸器疾患において,呼吸器臨床医は,まず家族集積性を調査し,これを分子生物学の解析に結びつける地道な努力が要求されているのではないか.本小文はそうした家族解析必要性の背景を論述したい.
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