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はじめに
運動時には,活動筋では酸素や栄養物の需要が急激に増し,また代謝産物の速やかな除去が必要となる.これらの要求に対して,心血管系の反応としては心拍出量を増し各臓器への血流の再配分が起こる.そのような心血管系の反応は心臓をはじめとする各臓器と骨格筋に分布している自律神経系の調節,すなわち交感神経活動の亢進と迷走神経緊張の解放により身体内部の恒常性を保つための合目的なものである.
マラソン,クロスカントリースキーなどの持久性運動を行っているスポーツ選手では遠心性左室肥大を特徴とした心臓の形態変化,骨格筋での毛細血管の増加や代謝酵素活性の増大などに加えて,心血管反応の主な調節機構である自律神経系の機能も変化する.それは運動時における効率の向上につながる1).トレーニングが心血管系に及ぼす顕著な変化として,安静時の徐脈と亜最大運動負荷時における心拍数の低下がある2,3).
心血管系についての自律神経機能の評価は血中アセチルコリン濃度4)やカテコールアミン濃度5〜10),radio-ligand結合法によるβ—受容体密度の測定10,11),microneurographicによる筋交感神経活動の直接的記録12)とともに,肉体的・精神的ストレス時や自律神経遮断時の心拍13,17),血圧18〜21),末梢血管抵抗22,23)などを指標としている.心拍や血圧は循環系の動的平衡を保つために日常生活時の安静,睡眠,各種行動や情動などの環境変化に対して絶えず変動しており,このような変動には自律神経系の調節が深く関与する.換言すれば,自律神経系の活動や機能に関する有用な情報を提供する24〜26).特に,心拍変動は,様々な環境変化に対する非侵襲的な自律神経評価法として広く用いられている.心拍変動の分析方法にはRR間隔または心拍の時系列データの平均,標準偏差,変動係数などの時間領域パラメータがある27).しかし,この時間領域パラメータでは,副交感神経活動と交感神経活動との区別ができない.自律神経系の活動は周期的に行われていることから,交感神経活動と副交感神経活動の分離を考慮に入れた心拍変動のパワースペクトル解析による評価が最近盛んに行われるようになった18,29,30).
本稿では,スポーツ選手特有の自律神経機能について上述した方法により得られた知見に,われわれの成績を加えて解説してみたい.
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