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去年を振り返ると,2014年は研究不正が大きくクローズアップされた年であった.1月末に理化学研究所から発表されたSTAP細胞は内容が斬新であったこと,iPS細胞がノーベル賞を授賞して間もないこと,若い女性研究者が発見した研究であったこと,記者会見で華々しい演出がなされたことから世間の大きな耳目を集めた.しかし,この研究は発表直後から様々な疑問点が指摘され,研究不正の発覚,著者のテレビでの謝罪会見,責任著者の自殺を経て,最終的にSTAP細胞は当初から存在せず,ES細胞の混入であったとの理研の会見で一応の幕を引いた.こうした捏造は日本だけの問題ではない.まだ記憶に新しいのは韓国の黄教授によるヒト卵細胞を用いた核移植によるES細胞樹立の捏造が挙げられる.日本ではあまり報道されていないが,2014年には米国でもハーバード大学の高名なPiero Anversa教授らの心臓組織幹細胞に関する論文の捏造も報道され,現在も調査が続いている.こうした不正は研究の本来の目標を見失い,成果至上主義になり,また途中のプロセスを一歩一歩検証することを経ずに,見かけだけ形を追い求めるところから発生している.また,その背景には研究費の獲得や昇進へのプレッシャー,世界的競走に打ち勝つための焦りがあるであろう.われわれはこれらの一連の研究不正を真摯に見つめ直し,対岸の火事で自分には関係のないこととせずに,日本全体のサイエンスの信用問題と捉えなければならない.若手医師・研究者には千里の道も一歩からの言葉通り,まずは焦らずに日々の一歩一歩のあゆみを大切にして貰いたい.プロセスを積み上げることこそ最も重要な価値を持つことを理解し,着実に歩んで貰いたいと思っている.2015年は明るい年にしたいものである.
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