--------------------
あとがき
福田 恵一
pp.1198
発行日 2012年11月15日
Published Date 2012/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404102103
- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
最近,病棟を回診して思うことは心房中隔欠損症の多さである.以前は年に数人しか入院がなかったが,現在では毎週1名以上の新規入院がある.もちろん,これは河村朗夫講師がアンプラッツアーによる欠損口閉鎖術を行っているため,東日本の多くの施設から紹介があるからだが,これだけ多くの症例を見ているといくつか思うことがある.心房中隔欠損症は多くの遺伝子異常が関与するとされる多因子遺伝であることが知られている.しかし,これらの症例のうち,アイゼンメンジャー症候群に移行するものはごくわずかである.肺体血流比(Qp/Qs)が大きいものほど肺高血圧症を合併し,アイゼンメンジャー化する傾向があるが,これはQp/Qsが小さいと肺高血圧症になりにくいというだけで,必ずしも一定の傾向は無い.
すべての疾患が遺伝要因と環境要因の双方の影響を受け,その寄与の程度により遺伝性疾患と呼ばれたり,『あなたは糖尿病の遺伝素因を持っています』などと言われる.心房中隔欠損症は遺伝要因が強い疾患であるが,アイゼンメンジャー症候群化する症例は特殊な遺伝子異常が関与するものなのか,あるいは肺血流が多いことが血管のシェアストレスを介し平滑筋肥厚をもたらし生じるものなのか? シェアストレスが関与するとすれば,血管内皮細胞から分泌されるエンドセリンやケミカルメディエーターを介した局所炎症ということになるが,症例間の個人差を炎症の質と程度で説明するのか,それともそこにも遺伝要因が関係すると説明するのか,現時点では分からない.
Copyright © 2012, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.