- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
昨年の最もインパクトのあった臨床試験はEMPA-REG試験で,結果が発表されたヨーロッパ糖尿病学会の会場ではスタンディングオベーションが起こったと聞く.これまで,血糖コントロールをターゲットに治療していた数多くの試験では,すべて死亡率を改善することなく,期待されたDPP-4阻害薬の大規模臨床試験もこれまで薬剤の有意性を示すに至っていなかった.ところが,糖尿病に対して死亡率を下げる薬剤としてSGLT2阻害薬が突然脚光を浴びることになった.本誌の中で木村先生がSGLT2阻害薬の将来性について書かれているのは実に慧眼で,ぜひ皆様にご一読いただきたい.今回の本誌の特集は,わが国で行われている疫学研究についてである.ご存知のように,疫学研究はコレラと水道水の関連を明らかにしたジョン・スノー医師に始まる.コレラという疫病を防ぐための方法として確立した疫学を生活習慣病に応用されたのが,フラミンガム研究であった.原因不明な心筋梗塞が,血圧,肥満,糖尿病,脂質異常症,喫煙などの冠危険因子と関連することを明らかにした.この結果,これらの因子の介入により米国では冠動脈疾患の死亡率は急速に低下している.フラミンガム研究は今でも,国家事業として継続され,時代の変遷とともに増加する疾患である心房細動や心不全での要因も検討されている.このように,疫学研究は短期の成果だけでなく,脳・心血管疾患のトレンドを把握して,対策を立てることにも必須の研究である.ただ,疫学研究の設立と継続のためには,対象者の協力と資金が必須である.特に,脱落率の低いFollow-upが重要となってくる.昨秋にマイナンバー制度が導入されたが,公共的な疫学研究のためにマイナンバー制度が使えるようになれば,日本の疫学研究に多大な貢献をすることになる.この特集を機に,疫学研究の研究者の方が集まって,マイナンバーの活用について議論してみることも重要である.
Copyright © 2016, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.