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今回の特集は「循環器疾患の逆リモデリング」が取り上げられた.リモデリングという言葉が循環器疾患の領域で注目されるようになったのは,まずは1987年にGlagovが冠動脈において動脈硬化は動脈壁にプラークが形成され血管径は拡大するが,血管内腔は保持されるように進展することを病理学的に明らかにし,それまで通常考えられていた動脈硬化が血管内腔に脂質が沈着して内腔が狭小化するという概念を変えたことである.また,1986年にMcKayらが心筋梗塞後に左室の拡大と変形が生じることを示し,これを左室リモデリングと呼んで,左室リモデリングによる左室拡大が予後悪化につながることが知られるようになった.同時にACE阻害薬が左室リモデリングを予防し,心筋梗塞後の心不全の予後を改善する薬剤であることを示したSAVE試験は大きな話題となった.このように,血管にしても心臓にしてもリモデリングは一見生体にとって長期的に悪と考えられているが,血管においては血流を保持するための,心臓としては心拍出量を保持するための合理的な適応機序でもあるわけで,われわれは結果だけをみて悪と思っているだけなのである.生体が合理的な適応として行っているのがリモデリングであり,すべてが悪ではないはずである.しかし,血管においてはスタチンの出現でプラークの退縮に伴い逆リモデリングが起こりイベントの減少が期待されるようになった.また心筋ではβ遮断薬による逆リモデリングにより心機能の改善が期待されるようになった.リモデリングが可逆的な変化で,一部は結果として悪につながる全身反応の過剰な適応ではないかと理解されるようになった.炎症,神経体液性因子など全身的な要素がリモデリングに関与すること示されたことから,循環器疾患における逆リモデリングは,心臓・冠動脈だけに注目する時代は過ぎて,全身疾患としての循環器を考えなければならない時代,すなわち循環器疾患に対する概念の逆リモデリングをわれわれがしなければならないことを示唆しているのかもしれない.
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