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はじめに
動脈硬化症は狭心症,心筋梗塞,脳梗塞などの重篤な心血管疾患の基盤となる病態である.動脈硬化は血管壁への脂質の沈着やプラークの形成が特徴であるが,さらに血管壁において慢性炎症を生じていることが多くの知見から明らかになっている1).また心血管イベントの原因となる動脈硬化のプラーク破綻の発生部位には炎症細胞の浸潤が多いことも報告されており,動脈硬化の抑制のみならず心血管イベントの抑制を目的として,炎症や免疫を制御することは大きな意義があると考えられる2).
一方,心血管疾患の一次予防ならびに二次予防においてスタチンによる脂質異常症の治療がスタンダードとなっているが,低比重リポ蛋白(LDL)コレステロールの管理を行っても,依然として心血管疾患を発症する例は少なくない.このような背景からLDLコレステロール管理のみでは取り除けないリスクの存在が示唆され,R3i(Residual Risk Reduction initiative)が発足するなど,世界的に残余リスクへのアプローチに注目が集まっている3).
われわれは残余リスクの一つとしての慢性炎症,特にT細胞を中心とした獲得免疫系が,動脈硬化の進展において重要な役割を果たしていることに着目した4).炎症を負に制御する制御性T細胞(Treg)が,動脈硬化症において病変形成に抑制的に働くことが分かりつつあり,Tregをターゲットとした炎症・免疫の制御が新規の動脈硬化治療法の開発につながると考えている.さらにこのような動脈硬化の抗炎症免疫療法の研究を進めるなかで,「動脈硬化を腸管免疫修飾により予防する」という概念を確立し報告した5,6).また腸管免疫は特定の腸内細菌により強く影響を受けていることも明らかになりつつある.そこで,われわれは腸内細菌が動脈硬化の発症と深く関わっているのではないか,腸内細菌叢が動脈硬化の新たな治療標的になるのではないか,と仮説を立て研究を進めている.
本稿では,制御性T細胞,腸管免疫さらに腸内細菌に焦点を当てた動脈硬化研究を紹介して,今後の動脈硬化性疾患予防への展望を概説したい.
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