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肥大型心筋症は,特に誘因なく心室筋ことに心室中隔の肥大を来し,若年者の突然死や青壮年期の重症心不全の原因となる疾患である.肥大型心筋症が初めて報告されたのは1950年代であるが,当初から家族性に発症することが知られており,家族性肥大型心筋症とも呼ばれている.また,肥大型心筋症の遺伝性は常染色体性優性遺伝形式をとるが,その有病率は約500名に1名の頻度であることから,遺伝病としてはかなり頻度が高い疾患である.
肥大型心筋症の臨床診断は主に心電図,心エコー図所見で行われるが,心機能や病態を把握し,病態の進行度,臨床予後を推測するためには,血流動態や心筋虚血の評価が必要である.ことに,突然死や心不全のリスクを評価することは,臨床予後の改善を図るために必須であると言える.また,遺伝子変異が本症の原因となることが明らかになっており,本症の病因を把握し,リスク評価や予後推定に資する情報を得ることや,発症前診断への応用を含めて,遺伝子診断が実用化されつつある.さらに,肥大型心筋症と類似の病態を呈する肥大型心筋症類縁疾患でも遺伝子変異が病因であることが分かっている.これらの類縁疾患は肥大型心筋症とはまったく異なる病因によるものであり,病理像も異なるが,一部の類縁疾患では酵素補充療法が実用化されていることもあり,肥大型心筋症との鑑別診断が重要である.一方で,肥大型心筋症の病因となる遺伝子変異と種々の病態との因果関係の検証や病態メカニズムの解明が進められており,さらにはiPS細胞を用いた新たな病態解明研究が始まっている.肥大型心筋症の治療では,心肥大,心不全,不整脈などの臨床病態や病期に応じて,種々の薬物療法と非薬物療法が行われており,肥大型心筋症の治療予後は改善しているものの,重症心不全例の治療には限界があることも事実である.根治療法としての心臓移植にはドナー不足の問題もあることから,とりわけ重症心不全への治療法として,人工心臓の開発やさらには細胞シート移植などの新たな治療法への転換が期待される.
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