特集 進行期肺癌治癒への道—がんゲノム医療と免疫プレシジョン医療の接点
序文
各務 博
1
1埼玉医科大学国際医療センター呼吸器内科
pp.304-305
発行日 2020年8月1日
Published Date 2020/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1437200364
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肺癌は,本邦において長らく部位別癌死亡数1位という不名誉な位置を占めてきた.しかし,部位別年齢調整死亡率は1995年以降低下傾向が続いている.これは,肺癌診療が確実に進歩していることを意味している.特に,進行期肺癌に対する薬物療法の進歩にはめざましいものがある.
重要な第一歩は,2002年に上皮細胞成長因子レセプターチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)が承認され,EGFR遺伝子変異発見を契機としてゲノム医療の先駆けとなったことにある.その後,EGFR遺伝子変異と同じようにシグナル依存を引き起こすALK融合遺伝子変異,ROS-1融合遺伝子変異,BRAF遺伝子変異などが続々と発見された.シグナル依存する腫瘍細胞を制御する目的で様々なチロシンキナーゼ阻害薬が開発された.一時は,遺伝子変異→シグナル依存→分子標的治療薬というシナリオで治癒が得られるのではないかと期待されていた.しかし,チロシンキナーゼ阻害型分子標的治療薬を使った10年以上の臨床経験でわかったことは,耐性クローンが必ず現れ治癒に至ることはないという事実であった.がん細胞は絶え間なく遺伝子変異を集積し,進化の系統樹で示すことができるヘテロなクローナリティを獲得するなかで,耐性という形質を有するクローンを生むことを,私達は理解した.
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