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はじめに
睡眠時の換気障害を特徴とする病態としてよく知られているものにPickwick症候群がある1)。この症候群は,最初は,著しい肥満に伴う心肺機能の障害を特徴とする病態として,主に内科領域において研究され,換気障害に基づくCO2ナルコーシスのために傾眠症状が起こるものと考えられていた2,3)。しかし,精神科や神経科を中心とする臨床医学の分野で推進されてきた睡眠研究の進歩の結果,Pickwick症候群は,著しい肥満,昼間の傾眠,睡眠中の無呼吸を基本症状とすること,典型的なPickwick症候群の症状を備えている症例よりも,基本症状だけを呈しているPickwick症候群の不全型あるいは睡眠時無呼吸症候群と呼びうる症例がはるかに多いこと,昼間の傾眠はCO2ナルコーシスによるものではなく,睡眠中の頻回の無呼吸のために,夜間に充分な睡眠をとれないことが原因で,それを代償するために起こる現象であることなどが明らかにされてきた4〜6)。
また,Guilleminaultら7)は,一夜の睡眠中に10秒以上の持続を持つ呼吸停止(睡眠時無呼吸)が,30回以上も出現する場合が病的であるとして,睡眠時無呼吸症候群の診断基準とすることを提唱した。最近の約10年間の研究により,睡眠時無呼吸症候群の患者には,高血圧症や心不全などの循環器系の合併症が高頻度にみられることが明らかにされてきた8〜11)。その結果この症候群の病態について,さらに,耳鼻・咽喉科領域に加えて,再び内科領域でも関心がもたれるようになってきた。ところが,この症候群の診断のために必要とする夜間の睡眠ポリグラフ検査の煩雑さのために,その疫学的研究はまだほとんどなされておらず,正確な発生頻度は不明であるが,かなり高い頻度の病態であると推定されてきている。また,睡眠時無呼吸のマーカーである激しい鼾については,いくつかの疫学的調査研究が報告されている12〜15)。筆者ら16)は,習慣性の鼾が高血圧症の発症促進因子の一つであることを示す疫学的調査研究の成績を報告した。
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