巻頭言
麻酔と血圧と中枢神経活動
稲本 晃
1,2
1京都大学
2愛知医科大学麻酔科
pp.687
発行日 1973年8月15日
Published Date 1973/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404202517
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すべての麻酔医は血圧が心拍出量と末梢血管抵抗の二つの変数の複雑な変動の最終結果であることを十分承知しているが,今日でも末梢で測定した動脈血圧は麻酔中の循環動態の指標として広く用いられる。しかし麻酔剤の血圧に対する作用は極めて複雑である。例えばEager一派の研究では,麻酔による血圧の変動は麻酔剤の血中濃度のみでなく,麻酔時間によっても修飾され,ハローセン麻酔では,血中濃度と血圧下降とに関する用量—作用曲線は時間の経過とともにその勾配が緩かになることが示された。われわれの動脈圧脈波と容積脈波との比較実験でも,麻酔の当初とある時間経過後では,波高,波型の対比が変って来ることをしばしば経験している。
麻酔剤の心血管系に対する作用は,心血管系への直接作用(末梢作用)と,中枢神経を介する間接作用(中枢作用)の二面性を有しているのは当然である。末梢への直接作用については,笑気を除き,すべての麻酔剤が抑制作用を有することが知られている。ある種の麻酔剤,例えばエーテル,サイクロプロペンではそれにもかかわらず血圧が不変,または上昇するのは,循環調節神経の活動がこれらの麻酔剤で昂進し,血圧昇圧アミン濃度が上昇するのに,臨床使用濃度で血圧下降の著しいハローセン,ペントレン,バルビツレイトではその活動が抑制されることが,Price一派の研究で示された。
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