巻頭言
思いつきと背景
村尾 覚
1
1東京大学医学部第2内科
pp.99
発行日 1971年1月15日
Published Date 1971/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404202230
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心電図学の発達をふりかえってみると,心臓病学や内科学全般の知識の増加につれて,自ら知見が増した部面も勿論非常に大きいが,後世のものがみると,コロンブスの卵式のちよっとした思いつきや観察が始めにあって,それが重大な進展につながったように思われる事例も少なくない。これは何も心電図学に限ったことではなくて,すべての学問で同様なことがあるわけであるが,心電図が方法や観察が手軽であるため,そのようなチャンスは誰にも開かれていたし,現在でもそうであるわけであって,複雑な手技や器械を必要とする分野よりもそのようなチャンスが多いといえるのではなかろうか。
そのような事例を今憶い出すままに考えてみると,確かにコロンブスの卵式の偶然の試みやちよっとした発見という感が深い場合でも,やはりその背景にはその時々の必然性のようなものがあることも同時に気付くことも多い。胸部誘導の考えが導入されたのは1930年代の始めであるが,その頃にはすでに不整脈の心電図的解釈は今日と大差ないまでに心電図が深く活用されていたのであって,何故それまでにこんな自明な方法が思いつかなかったのか,と今日の世代は不思議に思うこともあるであろう。Wolferthが初めて今日でいう前壁中隔梗塞の診断に胸部誘導を適用した意義はきわめて大きく,画期的な事であるが,その始めにはちよっとしたインスピレーションが働いたにちがいない。
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