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はじめに
浮き袋(鰾)は魚類にだけ備わった特異な器官である。発生的に食道の陥凹として生じ,成魚となっても食道と連絡をもつ開鰾類(physostome)と,連絡の途切れる閉鰾類(physoclisti)とがある。また鰾が退化して痕跡的にしか残らないものもある。開鰾類では鰾内のガスは主に口からの飲み込みと吐き出しによって調節されるが,閉鰾類では血管系を介して調節される。もちろん進化の程度にしたがってその両方を兼ねるものもあり,生態との関連や機能的解剖学的に千差万別の様相を呈するといっても過言ではない。機能的にみても補助呼吸器,音受容器,音発生器,比重調節器などの役割が考えられている。本稿で扱うのはこれらの機能の基礎として血管を通じてのガスの移動の問題である。
鰾は水面下ほとんど0mに棲む淡水魚から1000mをこえる深海魚にまで見出されるものである。深海魚では膨大な水圧が鰾内のガスにも及ぶわけであるから,仮りに通常200mの深さに棲む魚では20気圧の圧力が鰾内を支配している。そのガスの50%を酸素が占めるとすれば,その分圧は10気圧,約7,600mmHgという大きな値となる。実際に測定された魚では鰾内の酸素分圧が200気圧にも達するとみられる魚種も報告11)されているのである。しかも魚体の外側の酸素分圧は海水がよく攪拌されていたとしても,せいぜい1気圧の空気中と同じく150mmHg程にすぎない。したがって鰾内と外界の間には信じ難いほど大きな分圧差が存することになる。多くの研究者は当然この点に興味をもち多数の研究報告がなされてきた。しかし何らかの能動輸送がなされているであろうというだけで,その機序については解答がえられていない。
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