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はじめに
人間の栄養所要量を1日当り3,000Calとすれば,これを完全燃焼するために600lの酸素が必要であり,その結果480lの炭酸ガスが産生される。炭酸ガスは体液中でH2CO3となるがこの量は濃塩酸2l分に相当する。このような大量の酸素と炭酸ガスを運搬するため,高等動物ではヘモグロビンが重要な役割を果たしている。なんらかの理由でヘモグロビンの機能に異常が起これば,組織はたちまちanoxiaとacidosisに襲われよう。
ヘモグロビンは酸素をその分圧に応じて可逆的に結合する性質をもっており,この特性を通じて肺から組織への酸素運搬機能を果たしているのであろが,その酸素解離平衡には著しい呼吸適合性がみられ,古くから呼吸生理学上の問題として注目を集めている。その中心的課題として,1)ヘム間相互作用と,2) Bohr効果(酸素親和性のpH変化)の二つがあげられるが,近年Brau—nitzerら1)やPerutzら2)による一次〜高次構造上の知見の飛躍的増大に加えて,Rossi-Fanelli一門3)によるサブユニットの単離,Monodら4)によるallosteric効果の概念導入,Beneschら5)によるallosteric effectorとしての2,3—diphosphoglycerate (DPG)の再確認などによって,次第にその機能の全貌が明らかにされつつある。この問題は単にヘモグロビンだけのものではなく,蛋白質や酵素一般の構造と機能の相関性解明に通じるものとして注目を浴びている。Monodがヘモグロビンに対して名誉酵素honorary enzymeの呼称を進呈したゆえんでもあろう。
本稿ではヘモグロビン機能の調節機構について,その構造との関連の下に分子生物学的観点から最近の知見をまとめてみたが紙数の制約上割愛した面も少なくない。幸い内外に数多くの綜説がみられるので詳細についてはそれらを御参照頂きたい6)〜11)。
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