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はじめに
初等物理学は,物体が外力により歪み(strain)を受けるとき,その物体内の各部は,応力(stress)と名付ける内力を,互いに他に及ぼし合っていることを教える。そのさい,物体内部に任意の面を考え,応力がこの面を境にして,互いに押し合うときに,これを圧力(pressure)と呼び,応力が互いに引き合うとき,これを張力(tension)と呼ぶことにする。
心筋の活動状態(active state)は,細胞の興奮後,運動(motion)と張力(tension)を生じる状態14)であり,したがって,それは筋収縮のある時点における筋短縮,および,張力発生能から評価される。それゆえ,われわれは,心筋の収縮性(contractility)を,分子間の力の発生に基づき,短縮,あるいは,張力を発生する,ないしは,その両者を生じる筋組織の特性と定義してよいであろう4)。
摘出心筋における収縮性は,等長性(isometric),等張性(isotonic),あるいは,その両者の収縮様式に加え,さらに,負荷を収縮開始前に与える(前負荷,pre—load),あるいは,収縮開始後に与える(後負荷,arter—load),ないしは,両者を併用する方法により,詳しく調べられる。しかし,生体内において,たえずポンプ作用をいとなむ心の収縮性については,研究者により,それがさまざまに定義され,摘出心筋におけるほど明瞭ではない。たとえば,心拍出量,分時心送血量,最高心内圧,最大圧上昇率(maximal dp/dt),max. dp/dt47/IP,P12.5 index,量加速,心仕事量,工率,心室機能曲線群,心力学的数値5)28)39)などが,次々に用いられてきた。さらに,最近,左心室を球体,あるいは,楕円体とみなし,収縮のさいの左心室壁内張力を知ろうとする試みが起こった。それは,心活動により発生する圧より,むしろ,心筋壁内張力のほうが,酸素消費を含む心筋エルネギー利用のより明らかな規制因子であることが知られてきた36)37)ためでもある。さまざまな血行動態下で,左心室の機械力学的な収縮要素の仕事と酸素消費のあいだに,すぐれた相関がみられ8),さらに,壁張力を比較的一定にしたさい12)18),心筋の酸素消費は,心筋収縮の程度,および,速度などの心筋のmechanicsに依存することが明らかになった。
心機能の考えについてなされた著しい進歩は,まず,ポンプとしての心の仕事が,なによりも,筋としての心の収縮活動によることを認識したことであろう。現代における心収縮の機械力学は,従来のような容量の流れ(心拍出最,分時送血量,駆血率),および,圧などによる心仕事の評価とは別に,ヒトを含めた哺乳動物の摘出心筋組織によりえられた成績に基づき,それらより,もっと直接に関係の深い張力の発生と心筋線維の短縮という言葉によって,生体内における心活動を理解しようとする。
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