巻頭言
わかりきつたことか
高木 健太郎
1
1名古屋大学医学部生理学
pp.797
発行日 1962年12月15日
Published Date 1962/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404201156
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先日名古屋での研究者のあつまりで,農学部の長谷川教授から昆虫の変態に関係するホルモンのお話を聞いたが,誠に興味深いものがあつた。そのときにカイコの雌から出る性ホルモン(フェロモン)で雄の蛾がバタバタする,しかもそれが数箇の分子で有効であるということをきいて驚いた。蜜蜂が花の方向にとぶのも花粉か何か極めて微量の分子的量に導かれるとしか考えられないので不思議に思つていたが,この話をきいてあり得べきことだと思つた。イヌやライオンも交尾期になると,相当遠方から雄がやつて来るが,これも同様ないわゆるフェロモンの存在によるものであろう。さて人間も異性を求めるのだが,それがどのような機序によるかわからない。視覚か,聴覚か,触覚か,恐らくやはり閾下の嗅覚刺戟によるものではなかろうか。異性相惹くというあまりにもわかりきつた事象であるためにさつぱり研究の対象としてはとりあげられないでいる。
この話の後の座談に理学部の小野教授(数学)が,走るのは歩くよりなぜ早いかということを問題になされた。これもわかりきつたことではないかと思つても,さてと開き直られるとさつぱり答えられない。後でその解析を小野教授の本で読んでなるほどと思つたことだつた。生物とは関係ないが,十字路では前の青の信号を見て通るのか,または横の赤信号を確認して通るのがよいかという話が出たが,どちらも一つでは正解ではないらしい。
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