巻頭言
単極誘導の反省
松田 幸次郎
1
1東北大学医学部応用生理学教室
pp.581
発行日 1956年8月15日
Published Date 1956/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404200397
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心電曲線の解釈には次の3観点よりの知見が必要である。(1)心筋細胞の活動電位発現の様相,(2)心臓内の興奮の伝播と消退の有様,(3)心起電力とそれに由来する周囲の導体内の電位分布との関係。この3方面の知識の何れの1つを欠いても心電図の解明は出来ないのであつて,正に三位一体の真理である。中でも(3)は所謂"誘導の本質"論であつて心電曲線から心起電力を推知する手懸りとなるもので極めて重要である。
所でこの誘導に関して近時"単極誘導"なるものの本体が問題となつている。元来電位というものは2点内の電位差として始めて意味を持つものであることはいうまでもない。そこで心起電力によつて身体のある2点A,B間に電位差が生じたとし,この際B点へ心起電力の影響が及ばぬことが予め確定しているとするとAB間の電位差は心起電力のA点のみへの影響によつたものと見得る。これが"A点の単極電位"の定義である。所が起電力の影響を受けぬ点というものは一般的にいつて(起電力が定位置単一の点2重極どいう特殊な場合を除き)導体が2次元又は3次元的に無限大の拡がりを有つている場合で電源より無限に遠い点という他にはない。人体では有限な導体の中に可成りの大きさの心臓という起電部があるのだから起電力の影響の及ばぬ点は恐らくないであろう。
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