診療指針
いわゆる心臓麻痺について
橋本 寬敏
1
1聖路加国際病院
pp.153-157
発行日 1954年5月15日
Published Date 1954/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404200151
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心臟搏動が止み,心臟がポンプの働きをしなくなることを心臟麻痺と謂うた。心室の搏動が停止すれば,全身の血液循環が停止し,5〜10秒で失神し,15〜20秒で紫藍症,呼吸困難,痙攣が起り1〜2分で死相があらわれ,そのまゝ3〜8分を経過すれば,脳の枢要な中枢は酸素不足により傷害されて,機能回復不能の状態に陥るから,どんなことをしても,その人は蘇生しなくなる。
どんな病気で死ぬ患者でも,呼吸よりも心臟が先きに停止した場合は斯うである。曾て問題になつたのは,臨床家がこの言葉を死亡診断書に書くことであつた。既に病名の判明した患者が急死したとき,心臟麻痺とは書かない。臨床診断上,何も病気が認められない人,これまで平気で日常生活を続けて居た人が,突然死んだ場合に,心臟そのものが,急に機能を停止して死んだと考える外ない場合に,病名を「心臟麻痺」と書いたものである。ところが外から見て,病気は無く思われても,大量の内出血が突然起つた場合もあろうし,青酸カリの自殺もあろう。その他色々の外から見えない原因で急死することがあり得るのであるから,それを屍体解剖もせずに,直ぐ心臟麻痺として片付けては困ると言うので,死亡診断書に心臟麻痺の病名を書くことが忌避された。殊に刑事上の問題を取扱う警察ではこれを嫌つた。その様な場合に実地家は通りのよい脳溢出とか,脚気衝心とかいう病名を代りに書いた。
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